個人年金保険と受取人~税金はどう変わる?子供や配偶者を受取人にしたシュミレーション
老後のゆとりある生活のために、公的年金とは別に「個人年金保険」へ加入する人が増えてきました。
個人年金保険料については一定の条件を満たしていれば所得控除を受けられ、節税効果も期待できます。
しかし年金を受け取る際は、契約者と受取人の関係によっては税金が高くかかってしまう場合もあるのです。
この記事では、個人年金保険の受取人によって税金がどう変わるかを説明していきます。
目次
個人年金保険の受取人は一般的に誰?契約者・被保険者・保険受取人の選択肢
個人年金保険は契約時に「契約者」「被保険者」「保険受取人」を決定しますが、三者は別々の人にすることも可能です。
契約者 | 保険料負担者。保険内容の変更ができる |
被保険者 | 保険の対象となる人 |
保険受取人 | 年金を受け取る人 |
たとえば、契約者・被保険者・保険受取人をすべて「夫」としても良いですし、契約者「夫」・被保険者「夫」・保険受取人「妻」と組み合わせることもできます。
ただし、契約者と受取人の関係性によってメリットとデメリットがあるので注意してください。
個人年金保険の受取人を本人にするメリットとデメリット
個人年金保険の受取人を「本人(契約者)」にするメリットとデメリットをご説明します。
メリット
- 所得控除(個人年金保険料控除)を受けられる
- 夫婦離婚時に変更の手間がかからない
メリットの1つ目は、所得控除を受けられるということ。
個人年金保険料は、適格要件を満たせば最高4万円までが控除の対象となります。
また、夫婦が離婚する場合のことを考えても、受取人を本人としておいたほうが変更の手間がかからないというメリットがあるといえます。
離婚を前提に受取人を検討するというのも嫌な話ですが、知識としてはおさえておきたいところですね。
デメリット
- 本人の死亡によって契約終了となる場合がある
個人年金保険の受取人を本人にするデメリットとしては、「本人の死亡によって契約終了となる場合がある」ということ。
たとえば、契約者=被保険者=受取人が「本人」で「終身年金」を給付中であれば、本人死亡によって給付は終了。
被保険者の生存が給付条件ですので、遺族があっても以降の支払いはありません。
個人年金保険の受取人を本人以外にするメリットとデメリット
個人年金保険の受取人を「本人(契約者)以外」にするメリットとデメリットについてご説明します。
メリット
- 生前贈与として利用することができる
デメリットのところでも触れますが、個人年金保険の受取人が本人・配偶者以外の場合には受け取った年金に対し、相続税よりも高い贈与税がかかります。
このことを踏まえ、相続税対策の生前贈与として、個人年金保険の受取人を本人以外に設定することもあります。
デメリット
- 所得控除(個人年金保険料控除)を受けられない
- 贈与税の対象となる
個人年金保険の受取人を本人・配偶者以外(たとえば子ども)にすると、すでに支払った保険料は控除の対象外となります。
また、受取人が本人以外であった場合、年金受取り時には贈与税がかかります。
個人年金保険の受取人を本人以外(配偶者・子供・親)にした場合の税金額シミュレーション
ここからは、個人年金保険の受取人を本人以外(配偶者・子供・親)にした場合の税金シミュレーションをしてみます。
比較のために、まずは個人年金保険の受取人が「本人」の場合から見ていきましょう。
個人年金保険の受取人を「本人」にした場合の税金額シミュレーション
モデル:35歳男性(本人)が毎月3万円ずつ25年間払い込んだ場合
契約者 | 本人 |
受取人 | 本人 |
年金の種類 | 10年確定年金 |
年金年額 | 95万円 |
払込保険料総額 | 900万円 |
必要経費 | 90万2,500円 |
雑所得の課税価格 | 47,500円 |
所得税額 | 2,375円 |
受け取った年金は所得の中でも「雑所得」という種類に分類されますが、年金全額に対して税金がかかってくるわけではなく、必要経費を差し引いた上で、課税所得を算出します
今回の事例では、年金年額95万円から必要経費90万2,500円を差し引きます。
必要経費を差し引いた結果、本人が受取人となった場合の課税価格は47,500円。
そして47,500円に所得税率5%をかけた2,375円が所得税額です。
個人年金保険の受取人を「配偶者」にした場合の税金額シミュレーション
モデル:35歳男性(本人)が毎月3万円ずつ25年間払い込んだ場合
契約者 | 本人(夫) |
受取人 | 配偶者(妻) |
年金の種類 | 10年確定年金 |
年金年額 | 95万円 |
評価額 | 900万円 |
贈与税の課税価格 | 790円 |
贈与税額 | 191万円 |
個人年金保険の受取人が本人以外の場合、まずは年金受給権の「評価額」を確認しますが、評価額は次のように決定されます。
次のいずれか多い額が年金受給権の評価額(年金の権利評価額)となります。
(1)解約返戻金の額
(2)年金に代えて一時金の給付を受けられる場合は一時金の金額
(3)予定利率等をもとに算出した金額
(予定利率とは、生命保険の保険料の計算等に用いられる基礎率の1つです)つまり、将来受け取る予定の年金総額ではなく、現在価値を評価額として課税の対象にするイメージです。
今回は、一時金900万円を受け取った場合を考えてみましょう。
贈与税には年間110万円の基礎控除がありますので、(評価額)900万円−(贈与税の基礎控除)110万円=790万円が贈与税の課税価格です。
この場合の贈与税額がいくらになるかを計算していきましょう。
(課税価格)790万円×(税率)40%−(控除額)125万円=(贈与税額)191万円
このように個人年金保険の契約者と受取人が異なる場合は、同一人物だった場合と比較してより多くの税金を払わなければならない可能性が高くなります。
参考サイト⇒国税庁| No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
個人年金保険の受取人を「子供」にした場合の税金額シミュレーション
モデル:35歳男性(本人)が毎月3万円ずつ25年間払い込んだ場合
契約者 | 本人(父親) |
受取人 | 子供(受取時に20歳以上とする) |
年金の種類 | 10年確定年金 |
年金年額 | 95万円 |
評価額 | 900万円 |
贈与税の課税価格 | 790円 |
贈与税額 | 147万円 |
個人年金保険の受取人が子供だった場合の考え方は、受取人が配偶者(妻)だった場合と同様です。
ただ、夫婦間の贈与の場合とは、税率・控除額が異なります。
さっそくシミュレーションしてみましょう。
(課税価格)790万円×(税率)30%−(控除額)90万円=(贈与税額)147万円
このように、受取人が子供だった場合の税金は、受取人が妻であった場合の税金と比較すると低くなります。
理由は、贈与税の税率には「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の2区分があるためです。
一般贈与財産 | 兄弟間・夫婦間・未成年の子への贈与など |
特例贈与財産 | 直系尊属から20歳以上の子・孫などへの贈与 |
参考サイト⇒国税庁| No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
本段落のシミュレーション事例を用いると、個人年金保険の受取人が「子供」の場合、子供の年齢によって次のような違いが出てきます。
- 受取人が「未成年の子供」だった場合……贈与税額191万円
- 受取人が「20歳以上の子供」だった場合……贈与税額147万円
個人年金保険の受取人を「親」にした場合の税金額シミュレーション
モデル:35歳男性(本人)が毎月3万円ずつ25年間払い込んだ場合
契約者 | 本人(子) |
受取人 | 親 |
年金の種類 | 10年確定年金 |
年金年額 | 95万円 |
評価額 | 900万円 |
贈与税の課税価格 | 790円 |
贈与税額 | 191万円 |
個人年金保険の受取人が「親」の場合も「配偶者」の場合と同様に贈与税額を計算します。
評価額900万円のうち110万円は基礎控除で差し引かれ、課税価格は790万円。
これに所定の税率をかけて控除額を差し引くと、贈与税額を出すことができます。
(課税価格)790万円×(税率)40%−(控除額)125万円=(贈与税額)191万円
個人年金保険と税金~契約者と受取人によって税金が違う
前段落で個人年金保険の受取人の違いによる税金額をシミュレーションしました。
契約者・被保険者・受取人の設定は自由にできますが、契約者と受取人の関係によって税金面で大きな差がつくことがお分かりいただけたかと思います。
シミュレーション結果をまとめてみましょう。
受取人 | 本人 | 配偶者 | 子供 | 親 |
年金にかかる税金の種類 | 所得税
(雑所得) |
贈与税 | 贈与税
(特例贈与財産) |
贈与税 |
税率 | 2,375円 | 191万円 | 147万円 | 191万円 |
※いずれも一時金として(一括で)受け取った場合
シミュレーションした結果、税金面では「契約者=受取人」としたほうが良いことが分かります。
個人年金保険の受取人と契約者における確定申告と年末調整の違い
個人年金保険の受取人が「本人」の場合、受け取った年金は「雑所得」の扱いになります。
雑所得は年末調整の扱いにならないため、給与所得者であっても確定申告が必要です。
ただし、給与所得者で確定申告が必要になるのは、雑所得を含む各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える場合に限ります。
では、個人年金保険の受取人が本人以外(配偶者・子供・親)の場合はどうなるでしょう?
まず、受取人が本人以外である場合、受け取った年金は「贈与」扱い。
贈与には110万円の基礎控除がありますが、これを超える分については確定申告が必要となるのです。
個人年金保険の受取人が死亡したらどうなる?
【モデルケース】
- 契約者=被保険者=受取人
- 個人年金保険の「年金開始以降」に死亡
この場合、個人年金保険の契約者が年金給付以降に死亡した場合はどうなるでしょう?
大きく分けて2つのケースが考えられます。
- 支払いは終了する(以降の年金は支払われない)
- 支払われ続ける(遺族が引き続き年金を受取る)
いずれのケースに該当するかは、個人年金保険の種類によって異なります。
保険の種類が確定年金であれば、契約者が死亡しても年金の支払いは続きます。
一方、終身年金や有期年金は被保険者の生存を条件とした契約であるため、被保険者の死亡によって年金の支払いは終了します。
個人年金保険の種類・概要と、「年金開始以降」に受取人が死亡した場合について以下表にまとめました。
個人年金保険の種類 | 保険の概要 | 受取人(=被保険者)が死亡した場合 |
確定年金 | 被保険者の生死にかかわらず、期間中は年金を受け取ることができます。 | 期間終了まで遺族が受け取ります |
終身年金 | 被保険者が生きている限り、年金を受け取ることができます。 | 支払いは終了します |
有期年金 | 被保険者の生存を条件として年金を受け取ることができます。 | 支払いは終了します |
夫婦年金 | 夫婦のどちらかが生存している限り、年金を受け取ることができます。 | 配偶者が生存していれば支払いは続きます |
ただ、上表の区別は厳密ではありません。
実際には、保証期間や特約を組み合わせることによって、受取人死亡後であっても年金の支払いが続く場合もあります。
たとえば、保証期間付き終身保険の場合は、受取人が死亡しても保証期間中はずっと年金または一時金が遺族へ支払われます。
個人年金保険の受取人を変更する方法と手順
個人年金保険の受取人は契約時に自由に設定でき、後から変更することもできます。
ただし、変更にあたっていくつか条件があります。
- 変更できるのは「契約者(保険料負担者)」のみ
- 被保険者の同意を得ること
- 死亡給付金が支払われる前であること
この他にも変更にあたって条件や所定の手続きが必要になります。
詳細は各保険会社へ確認するのが確実です。
まとめ
個人年金保険の受取人は自由に設定できますが、契約者(保険料負担者)=被保険者=受取人とすることで税制面でのメリットを受けられます。
年金の受取人が本人の場合は「所得税(雑所得)」の、配偶者や子供など本人以外の場合は「贈与税」の課税対象となります。
個人年金保険を契約する際は、受け取る年金にかかる税金も考慮しながら、ご自身に適した内容で契約するようにしましょう。