教育格差は仕方ない?FPが教える日本や世界の教育格差の原因と対策2019

2024.07.16

家計と暮らし

突然ですが、「教育格差」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。

所得格差や貧困等様々な要素を原因として、教育格差は助長され、結果的に一国の経済力や成長力を大きく損なう深刻な問題として提起されています。

先の敗戦後、目覚ましい復興と経済成長を見せ、「1億総中流社会」と言われる時代を迎えていた日本。

同じくして教育水準も上がり、バブル崩壊以後停滞感が漂う中でも、日本は勤勉で裕福な国として世界的にも位置付けられています。

しかしながら、世界的にはもちろん、日本においても、教育格差は実際の問題として顕在しております。

この記事では、主に日本で起きている教育格差の現状と、なぜ格差が起きるのかの要因や対策を探っていきます。

具体的に教育格差是正に向けて取り組んでいる団体のご紹介や、教育格差が小さい国の事例も見ながら、私たちに何ができるかをご一緒に考えていきましょう。

日本全体の教育格差の現状

まずはじめに、「教育格差」が何を指す言葉かを確認します。

教育格差とは、親の収入などによる格差が子どもの教育環境にも反映される問題であり、生まれ育った環境により、受けることのできる教育に生じてしまう格差のことである。教育環境が悪化していくと生まれた瞬間からその人の人生が限定されてしまう。

引用_日本における教育格差|香川大学経済学部

様々な要因があるでしょうが、基本的に子供が小さい頃に自身の希望や願望のみで意思決定することは出来ず、ほとんどが親の選択や価値観、またその親から受ける教育に対しての関わり方によって教育環境が決まっていきます。

従って、親(家庭)の環境や考え方が、そのまま子供に影響しやすいということですね。

現状日本では、教育費にかかる負担の大きさが問題視されています。

大学卒業までに各家庭が負担する平均的な教育費は、公立の幼稚園から高校まで在学し国立大学に進学した場合が約1,000万円、それらが全て私立の場合で約2,300万円に上ります。

引用_第1章 家計負担の現状と教育投資の水準|文部科学省

国公立と私立の差で2倍以上の開きもあり、子供が行きたい学校で学べるのではなく、親が選択した学校に行かざるを得ない状況にあるのが日本の教育環境の現実と言えそうですね。

ちなみに、OECD(経済協力開発機構)加盟国のいわゆる先進国の中で見た、「教育費の公私負担割合」を見ていくと、義務教育に入る前の段階と高等学校以降の私費負担割合(保護者側の持ち出しによる支出)が、OECD平均をはるかに下回る結果となっています。


引用_第1章 家計負担の現状と教育投資の水準|文部科学省

日本では、国による平均的な教育環境の設備水準が世界的に見ても低く、教育格差が生まれやすい状況になっていることがわかりますね。

日本の地域別の教育格差の現状

続いて、国内の地域による教育格差に関しても見ていきます。

文部科学省のホームページにも、下記のような考察があります。

教育条件の地域間格差

◯教育予算の一般財源化・国庫負担率引き下げ、地方財政の悪化により、教育条件の悪化、地域間格差が生じている。

引用_第2章 現下の教育課題への対応〜教育の機会の確保と質の向上〜|文部科学省

ただでさえ世界平均よりも低い公的負担割合の中ですが、それでも地方財政の悪化と絡み、全国的に平準化された教育環境が整っていないということが伺えます。

こうした結果を踏まえると、東京や大阪等の首都圏と比べてしまうと、地方の教育環境には差があると言わざるを得ないです。

それであればより一層、各家庭の私費負担にて教育環境を手厚くする(学校以外に習い事や学習塾に通わせる等)ことが格差是正に向けて求められるのですが、それも厳しいのがデータから見える現実です。

その理由として、厚生労働省の調査結果から、都道府県別の賃金からも地域間格差が読み取れるからです。

2018年の平均値では、1ヶ月の賃金が全国平均306,200円に対して、平均よりも高かったのは4都府県(東京、神奈川、大阪、愛知)のみで、東京の平均380,400円を10万円以上下回るのが25道県もあることがわかります。

参照記事⇒平成30年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

日本国内の半数以上の道県が、東京の平均より毎月10万円以上も収入が少なく、その分教育費にもお金をかけにくい状況であるということですね。

教育格差の最大の原因は家庭の経済格差

今まで、日本国内の教育格差や地域間格差について見てきましたが、それでも子供の成長においては、学業のみならず、日頃の衣食住や睡眠時間、精神衛生上健全に学業に注力できる家庭環境か否かも重要な要素です。

しかし今の日本においては、その家庭環境が劣悪という家庭が増えつつあり、公的負担の少なさと合わさって更なる教育格差が生まれているのです。

公益社団法人 経済同友会が2017年に発表した提言は、このような一文から始まっております。

日本の子どもの貧困率は1980年代から上昇傾向にあり、2012年には16.3%と、実に6人に1人の子どもが相対的貧困にある。過去2009年においても15.7%と高い数値を示しており、この時点でOECD(経済協力開発機構)加盟34カ国の中で10番目に高い水準であった。こうした世帯で育つ子どもは、学習や進学の機会のみならず、食事や医療等の面でも不利な状況に置かれており、 この状態が世代間で連鎖することも指摘されている。

引用_子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けてー未来への投資による真の総活躍社会の実現ー公益社団法人 経済同友会

上記文中にある「相対的貧困」とは、下記のような定義とされています。

この日本における「子どもの貧困」とは「相対的貧困」のことを指します。

相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯全員の平方根め割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のことを指し、子どもの貧困とは相対的貧困にある18歳未満の子どもの存在及び生活状況のことを指します。

こういった子どもたちは、毎日の衣食住に事欠く「絶対的貧困」とは異なりますが、経済的困窮を背景に教育や体験の機会に乏しく、地域や社会から孤立し、様々な面で不利な状況に置かれてしまう傾向にあります。

引用_子どもの貧困対策|日本財団

少なくとも、今の日本では前述の通り、各世帯における私費負担が教育環境の整備に大きく関わっているのが事実です。

その中で、家庭環境が上記のような「相対的貧困」に陥っている世帯に暮らしている子供が6人に1人の割合でいます。

30人クラスの教室で言えば、そのうちの約5人は、相対的貧困状態として家での生活環境が良好とは言えず、習い事や学習塾に行きたいと思っても満足に行かせてもらうこともできないということになります。

こうした経済格差があるという現実が、冒頭の教育格差を助長しているのですね。

家庭の経済格差が広がる主な3つの理由

それでは、そもそも家庭内での経済格差がなぜこのように広がっているのでしょうか。

前述の公益社団法人 経済同友会における提言から、経済格差拡大の要因として主に3つの原因を考えることができます。

都心と地域格差

まず1つ目は、都心と地方間の地域間格差が理由となります。

前述の厚生労働省調査の賃金調査結果にも同様の内容がありましたが、経済同友会の提言にも、下記のような考察があります。

・県民所得の数値として、東京都の450万円が最も多く、沖縄県の210万円が最も少なく、その差は2倍以上になる

・1990年以降、工場の集約や海外移転が加速し、生産性の低い「卸売・小売」「医療・介護」「宿泊・飲食」への就業者数比率が地方部では増えている(都市部では生産性の高い仕事への就業者数比率が増えている)

・上記の2点から、若者層がより稼げてより仕事のある都心部へ流入するようになり、雇用における地域間格差がより大きくなっている

参照記事⇒子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けてー未来への投資による真の総活躍社会の実現ー公益社団法人 経済同友会

今でさえ最大値2倍以上の差がある地域間格差ですが、上記の通り就業職種等、状況的にその差を埋める手立てが無い状態と言えます。

雇用形態の変化による格差

総務省調査における結果として、雇用者全体(役員を除く)5,649万人のうち、

・正規雇用者…3,497万人
・非正規雇用者…2,152万人

という分布になっており、雇用者全体の約38%が非正規雇用となっていることが見てとれます。

参照記事⇒労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)10〜12月期平均(速報)結果|総務省統計局

現代の日本では、全体の約4割もの方々が、非正規雇用としての働き方を選択していくこととなります。

昭和では終身雇用制度の下、定年まで1つの会社で勤め上げるという考え方が一般的でしたでしょうが、現代では仕事も変え、会社も変え、正社員以外で働くという選択肢が一般的な考え方になっています。

企業側としての雇用における事情(人件費削減や単純作業に対して低賃金で雇用する風潮)や、働く側における心境の変化(自由な働き方、責任のない働き方、等)と双方の利害が一致しているようにも見えますが、経済格差の面で言えばデメリットが大きいのが現実です。

世界的に見ても、この非正規雇用における賃金格差は大きなものとなっています。

日本のフルタイム労働者に対するパートタイム労働者の時間当たり賃金は、フルタイム労働者を100とした場合に56.8と低い水準であり、ヨーロッパ各国と比較しても著しく低い。

最低賃金の国際比較においても、日本の最低賃金の相対水準は36%(OECD平均は48%)と、OECD加盟国の中で最も低いレベルである。

日本の非正規雇用は正規雇用に比べて賃金が低いため、非正規雇用でフルタイム労働をしても、将来にわたって正規雇用の賃金カーブには遠く及ばない。正規雇用が右肩上がりの賃金カーブを描く一方、非正規雇用は横ばいで、むしろ年を重ねるごとに正規雇用と非正規雇用の差は拡大する。

引用_子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けてー未来への投資による真の総活躍社会の実現ー公益社団法人 経済同友会

こうした長い目で見て相対的貧困により近づいてしまう非正規雇用としての働き方が、現代の日本では一般的になりつつあるというのが経済格差の大きな要因となっていることがわかります。

終身雇用制度の終焉

最後の要因として、終身雇用制度が終焉を迎えつつある点が挙げられます。

日本では先の敗戦後、世界的にも例を見ない急速な復興を遂げ、そのまま高度経済成長期、その後の安定成長期と、国内の経済力が右肩上がりの成長を遂げた期間が数十年と長期間続いてきました。

この期間のうちは、日本は平等で均質な「1億総中流社会」と呼ばれ、失業率も2%を割るという完全雇用と言っていい安定した雇用環境がありました。

参照記事⇒子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けてー未来への投資による真の総活躍社会の実現ー公益社団法人 経済同友会

こうした時代では、雇用者側も安心感を持って働くことができますし、仕事や家庭において重大な不満が生まれにくいと言えますので、正社員として長期間働いていこうと思えます。

反面企業側としても、見えない将来にも数十年続く右肩上がりの経済成長を見ていますので、正社員を雇い続けて、継続した昇給やある程度まとまった退職金を用意するゆとりもあったということですね。

結果として、「終身雇用制度」というものが確固な仕組みとして成立していました。

ですが、世界規模で著しく進んだ技術革新やグローバリゼーションの流れの中で、いわゆる外資系企業の導入が活発になりました。

外資系企業では、終身雇用ではなく実力主義の社会が強い傾向にあるので、企業間はもちろん、企業内でも競争が激しくなりました。

合わせて、1990年以降のバブル崩壊、金融不安と重ねて起こる長期的な不況を受けて、日本経済は低迷し、「失われた20年」とも言われた時代を迎えます。

参照記事⇒子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けてー未来への投資による真の総活躍社会の実現ー公益社団法人 経済同友会

こうした国内外双方の時代の流れに良くも悪くも逆らえず、徐々に終始雇用制度は崩壊を迎えることになっていきました。

終身雇用制度でない場合、

・長期的な就業が保障されにくくなる
・賃金が年功序列のようにほぼ確実に上がるという保障がない
・退職金も期待できない場合がある

こうした長く働く上での不安要素が増え、経済的にリスクを感じる家庭が増えていることが推察されます。

こうした先行き不透明な不安感が、経済格差にも繋がっていると言えますね。

教育格差是正のために行われている取り組み・対策

こうした現に起きている教育格差を是正していくため、現在国内で行われている取り組みや対策をご紹介します。

義務教育の無償化

まず、日本国憲法の定義として、小学校から中学校までの9年間を、義務教育と位置付けて授業料は無料となっております。

参照記事⇒教育基本法資料室へようこそ!|文部科学省

ただし、義務教育中の給食費や教材費等、付帯するその他費用は基本全て保護者が受け持ちますので、義務教育中にも親が子供を学校に行かせるためにお金が必要となるのが現状です。

また参考として、2018年12月28日の合意をもって、幼稚園・保育園の年次にあたる幼児教育に関しても無償化する動きが固まりました。

※子供の年齢や、施設や世帯年収の違い等により、無償化の対象や上限等が異なります。

参照記事⇒幼児教育の無償化に関する協議の場 幹事会(第2回)|内閣府

奨学金制度

続いては、奨学金制度です。

まず、奨学金制度の意義について、文部科学省の説明を引用します。

奨学金事業は、日本国憲法第26条及び教育基本法第4条第3項に基づき、経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対し、教育の機会均等及び人材育成の観点から経済的支援を行う、重要な教育政策です。

引用_奨学金事業の充実|文部科学省

日本での奨学金事業は、1943年に創設された財団法人大日本育英会の奨学金事業が大元となっているようです。

元来「無利子・貸与型」としてスタートし、貸与希望者増に対応するため、1984年から「有利子・貸与型」もスタートして、現在全学生の約4割が奨学金を利用しています。

参照記事⇒奨学金事業の充実|文部科学省

また、2017年から、学生の負担軽減のために、

・無利子奨学金の更なる充実
・「給付型」奨学金事業の開始

が始まっています。

参照記事⇒奨学金事業の充実|文部科学省

子供に降りかかる経済的負担の軽減に向けて、国としても着実に動いてくれているのが伝わりますね。

貧困家庭への支援

次に、貧困家庭への支援についてです。

日本では、2013年の6月に、「子供の貧困対策の推進に関する法律」というものが定められ、この法律を基に2014年8月に、「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定されました。

参照記事⇒子供の貧困対策の推進に関する取組|文部科学省

この大綱に基づいて子供の貧困対策が推進できているかを図るべく、施策の実施や効果検証のため25つの指標を設けています。

この記事にて、大項目の6つをご紹介します。

⑴教育の支援(教育費負担の軽減、等)
⑵生活の支援(保護者・子供の生活支援、等)
⑶保護者に対する就労の支援(ひとり親家庭の親の就業支援、等)
⑷経済的支援(児童扶養手当と公的年金の併給調整見直し、等)
⑸子供の貧困に関する調査研究等(子供の貧困の実態把握、等)
⑹施策の推進体制等(地域の実情を踏まえた自治体の取組の支援、等)

参照記事⇒子供の貧困対策の推進に関する取組|文部科学省

貧困家庭の支援に関しては、子供に対してだけの支援にも、保護者に対してだけの支援にも一定の限界がありますので、国として複合的な支援を体系化しているようです。

こうした支援の取組が貧困の改善に繋がることを期待したいところです。

教育格差是正に取り組んでいるベンチャー企業・NPO

実際にこうした教育格差の問題を是正すべく活動している、ベンチャー企業やNPO法人をいくつかご紹介していきます。

それぞれホームページのURLも載せさせていただきますので、ご興味を持たれた場合はアクセスしてみてください。

認定NPO法人カタリバ

沿革のページを引用します。

カタリバは「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、どんな環境に生まれ育っても、「未来は創り出せる」と信じられる社会を目指して、活動を続けてきました。

設立当初から続けてきたカタリ場事業、震災をきっかけとして始まったコラボ・スクール、そしてマイプロジェクト。そこからさらに、都市部と地方のそれぞれの課題や、子どもの貧困問題など、社会の変化に応じて新たな事業に取り組んでいます。

引用_沿革|NPOカタリバ

カタリバの主軸として、設立当初から展開されています「カタリ場」という活動があります。

これは「ナナメの関係」に位置する大学生や社会人のスタッフが高校に訪問して、高校生に対して「本音の対話」を展開しながら、高校生に幅広い進路に対する具体的な興味関心や学ぶ意欲を引き出すための活動です。

限られた人間関係の中で固定概念が育まれ、教育格差のある教育環境の中で育つことにより、「自分はダメなんじゃないか」といった自己肯定感の低下や、限られた進路しか選択肢がないと思い込んでしまうような環境を是正したいというのが代表理事の想いとしてあるようです。

参照記事⇒カタリバの理念|NPOカタリバ

筆者が大学生時代、知人も学生ボランティアとしてカタリ場に参加しておりました。

カタリバでは、こうした学生ボランティアとしての参加や職員としての参加、またNPO法人ですので寄付としての活動支援といった様々な関わり方があります。

ホームページURL:https://www.katariba.or.jp

Teach for Japan

子供の成長は「教室」の中でこそなされるものだという信念の元、教室での教育の質を向上させることに力を注ぐ認定NPO法人です。

多くの地域自治体において、常勤講師の確保は喫緊の課題となっていますが、少子化やその他の様々な要因から、教師を志す人の絶対数と実際に教師になる人の絶対数が減っていることが一番の要因です。

常勤教師の量が減れば、1人1人にかかる負荷は大きくなり、一方で地域や保護者からの要望は増すばかり。

結果として、教師は仕事をこなしていくことと地域・保護者の要望に添えるように頑張って行かざるを得なくなり、子供の「教育」という定量化できないものがおざなりになってしまう、という図式が出来上がっていきます。

かといえ、質と量どちらも求められる教師の育成や選定には多くの時間と努力を要しますので、結果として教育現場での悪循環は中々改善へ向かいません。

Teach for Japanでは、「教育に関心がある」という想いを持つ方々に対し、実際に常勤講師として教育現場へ派遣する仕組みを提供しています。

特徴としては、

・教育に興味はあっても関われていない層に対して、その場と充実した研修・フォローアップシステムの提供する

⇒教育の「当事者」を増やし、社会全体を巻き込む教育改革を目指す

・教育者の質と量に悩む自治体に向け、安心して任せられる質のいい常勤講師を提供する

⇒既存の教師陣への負担軽減と、本質的な教育に目を向ける余裕を作り、「教室での教育」の質向上を目指す

・寄付型のNPO法人として、多くの方々の寄付金にて運営する

⇒教育現場外の関心ある方々を多く巻き込むことで、間接的当事者も増やすことができる

こうした三位一体のプログラムであることです。

実際に教師になる当事者に関しては、連携を合意した自治体に対しての採用フローにおいて、選抜と選抜後の研修を通した指導を受けます。

研修は派遣前に留まらず、現場への派遣後も、実際の授業観察やコーチング指導等のフォローアップを継続的に受けながら、2年間の派遣任期を満了します。

このプログラムを修了した講師たちは、

・そのまま教師として継続する
・経験を活かして他分野に進む

どちらの選択肢も用意されていて、他分野を選択しても間接的に教育現場に関わるなどして社会全体における教育者が増えていくことになります。

実際に社会人となってからの経験を踏まえて、「教育者としての道を歩みたい」といった想いを抱く方も一定数いらっしゃるでしょう。

こうした方々に、教育現場に携われる環境が与えられるのは素晴らしいですね。

ホームページURL:http://teachforjapan.org

Learning for all

以下、ホームページのミッションを引用します。

ミッション

九九が解けない中学生がいた。

家で勉強をすると怒られる女の子がいた。

1日で給食しか食べていない児童がいた。

でもそれは、子どもたちのせいではなかった。

貧困の再生産、一人親世帯の増加、地域格差・・・

他にも様々な社会課題が、子どもたちに不利を押し付けていることがわかった。

 

支援をはじめて私たちは、「機会」と「期待」を与えれば子どもたちは前向きに成長し、可能性を見出すことを知った。

課題を乗り越え、自分の力で人生を切り開いていく生徒の姿に希望をもらった。

そしてなによりも、この支援の必要性を実感した。

すべての子どもには可能性があり、幸せに生きる権利がある。

社会課題の本質的解決のためには、これからも支援を続けなければならない。

私たちLFAは子どもたちの人生を変え、社会を変える変革者です。

引用_私たちについて| Learning for all

このLFAの代表者は、前述のTeach for Japanにて、このLFAの前身となるプログラムに参画していたそうです。

Teach for Japanの目指していたプログラム修了後も教育に関わる最たる事例と言えますね。

LFAの仕組みとしては、

・「見つける」…生活保護や就学援助、健康診断の結果や虐待の過去等様々な情報を網羅する中で、困難を抱えている子どもを早期に発見

・「繋げる」…LFAか主催する支援会議にて、自治体・学校・ソーシャルワーカーを巻き込み、各子どもに対する具体的な支援計画を策定

・「支援する」…子どもそれぞれの事情に対応しながら、学習ができる拠点や大学生講師の提供、安心して本来の家同然の生活が出来る生活拠点の提供等、必要な拠点と指導者の配置によって子どもを支援

という三段階の構成の支援となっております。

月々1,000円からの支援が選択でき、また1回ごとの単発の支援も選択が可能です。

ホームページURL:https://learningforall.or.jp

Chance for Children

前述の通り、所得格差が教育格差の大きな要因であることへの問題意識と、その解決を支援者からの寄付によって是正していこうとする公益社団法人です。

Chance for Children(CFC)の特徴として、

・毎月1,000円からの指定で、定期的な支援が可能

・現金給付ではなく、有効期限付きのクーポンを子供に配布することで、然るべき時期教育の目的のみに活用される

・学業だけでなく、スポーツや文化活動等の幅広いジャンルで教育支援が可能

・大学生ボランティアによる子供への定期フォローや行政の介入も含めた体系的な運用システム

が挙げられます。

寄付金の使途についても、85%以上を子供への直接的な支援費(65%以上:教育クーポン費、残り20%未満:学生ボランティアとの面談費や調査研究日等の諸経費)として利用しており、人件費等の管理費を15%未満に抑えている点も誠実な運営を感じますね。

ですが、資金不足の中、1,500名以上の子供から支援応募を受けるものの、1,000人以上の子供が落選いている状況で、今後益々の飛躍が鍵となります。

2名の代表理事がいずれも30代で、未来に向けて明るい兆しを感じさせてくれる団体ですね。

ホームページURL:https://cfc.or.jp

世界的に教育格差が小さい国の事例から学べること

今まで見てきました通り、教育格差の大きな要因として、経済格差(相対的貧困率)が関係していることがわかりました。

それでは、OECDの貧困調査で先進国34カ国中最下位(貧困率が低い)グループに位置し、教育格差も同様にほとんどないと言われているフィンランドの教育制度がどのようになっているかをご紹介します。

まず、フィンランドでは高校までの授業料はもちろん、給食費、交通費、下宿費といった学ぶ上で必要なもの全てが無料となっており、大学でも授業料は無料で、給食等も安く提供されています。

つまり、学ぶことにおいて家庭環境は左右されにくい仕組みとなっているのです。

加えて、フィンランドでは他人と比較するための試験が無く、学校ごとのいわば偏差値の差がない仕組みとなっていますので、地域間の格差も生まれにくく、学びたいと思う子どもに対して国内のどこでも平等な教育が受けられるということです。

参照記事⇒学力格差と家庭環境との因果関係ー現状分析と克服に向けた実践事例ー|東京大学大学院教育学研究科

実際に教育格差が少ないフィンランドの例から見ても、子供が親や家庭の事情に左右されず、学びたいという願望を満たせる環境があるかないかが、教育格差を少なくしていけるということと相関関係にあることは容易に想像できますね。

まとめ

前述のLearning for allに載せられていた、3人の子供の事例を引用させていただきます。

※名前は仮名です。

・情緒不安定な母親と生活保護で2人暮らし…。学びたくても学べなかった、みどりさん14歳

東京都で暮らす中学3年生のみどりさんは生活保護を受けて母親と2人で暮らしています。

自宅の冷蔵庫はいつもスカスカで、ふりかけやマヨネーズをかけたご飯が主食。おかずはありません。

エアコンは使えないので特に夏は蒸し暑く、ガス代も気にしてまおもにお風呂には入ることもできません。

〜中略〜

狭いアパートの中は物が散乱しており、勉強できる環境はどこにもありません。

自分が苦労したから「将来は公務員になりたい!」

だから、「高校に行きたい!」という目標を持ったものの、不登校だったことや家庭での学習環境が整わなかったことも影響し、中学3年生時点で小学4,5年生レベルの学力しかありませんでした。

 

・DV・いじめ・不登校…3年間ら学年最下位のけいこさん15歳

東京都に住む中学3年生のけいこさん。母親と弟2人との4人家庭で生活保護を受けながら暮らしています。

小学校の時には両親の離婚により苗字が4回変わりました。苗字がコロコロ変わることで学校ではいじめにあい、不登校気味になってしまいました。

〜中略〜

さらに、小学校高学年の時には同居していたおじいさんからのDVを受け、夜逃げ同然で今の家に引っ越してきました。

〜中略〜

母親は精神的に不安定で、けいこさんが家事をしたり、幼い弟2人の面倒をみなければならず、家庭で勉強する時間は取れません。

このような生活が続くけいこさんは、中学でも最下位をとってしまうことが続いていました。

 

・着替えは週に1回。虫歯治療も受けられず、生活が乱れているみずきちゃん9歳

東京都に暮らす、小学3年生のみずきちゃん。

父親はほとんど家に帰ってきません。

母親は軽度な知的障害をかかえており、みずきちゃんの成長とともに、養育する力が不足するようになってしまいました。

基本的な生活習慣を身につけることが難しい環境にいるみずきちゃんは、当初1週間同じ服を着て過ごしており、入浴習慣もありませんでした。下着や靴下はひどくよごれ、髪の毛もクシが通らない状態です。虫歯は3本あり、学校から歯医者に行くよう通知を受けていますが、まだ歯医者に連れて行ってもらうことができていません。

給食が主な食事で、土日はまともなご飯が食べられません。夏休みには、体重が減ってしまいます。

〜以下略〜

引用_“貧困”は海外だけの問題ではありません…|Learning for all

ホームページに載る代表的な事例でしょうから、最もひどい類の事例かとは推察できます。

しかし、前述の通りOECDの調査によれば、裕福で不自由も感じないこの日本において、大なり小なり上記のような環境の中、満足に教育を受けられていない子供が6人に1人の割合でいるのが、数字から導き出せる事実です。

事例共有として挙げさせていただいたフィンランドは、消費税が24%で、所得に関係なく全国民から多額の税金を徴収する国です。

ただ、その分の公共サービスや老後の安心、そして今回のテーマである教育においても手厚い保障が確立されていて、結果教育格差の少ない国となっています。

国の仕組みそのものが違いますので、一概にフィンランドや教育格差の少ない諸外国のマネをすれば改善する問題でもないでしょう。

しかし、一見裕福で平和に見える日本の見えない一面では、目を向けられない現状がはびこっている事実を踏まえて、具体的な改善策を実行に移さなければならないフェーズに入っているのが、今の日本です。

私たちにできることは、まずはこうした事実が日本において問題になっていることを知ることからではないでしょうか。

そして、教育格差是正に取り組んでいる上記のような団体に共感できる方は、寄付や活動への参画を始めていくことが、いつしか日本全体での問題意識になり、改善活動になっていくのではないでしょうか。

日本における教育格差が少しずつでも是正されていきますよう、私たち国民1人1人の関心から社会が変わっていくことを期待しております。

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