80%の節税効果をもたらす小規模宅地等の特例!適用条件から計算方法、注意点まで解説
80%の節税効果をもたらす小規模宅地等の特例!適用条件から計算方法、注意点まで解説
小規模宅地等の特例とは、土地の価格を最大80%まで下げる大きな節税対策方法です。
例えば、6,000万円の住宅が1,200万円の価値とみなされるため、相続税の支払いなしで受け継げるようになることも。
さらに、小規模宅地等の特例の良い所は、
・完全二世帯住宅でも適用される
・複数土地の相続でも利用可能
・広大地との併用可能
などたくさんあるのです。
ぜひ利用したい制度ですが、少しばかり適用条件などが複雑なので、しっかりと理解することが大切。
そこで記事では、小規模宅地等の特例の基礎知識の解説、よくある5つのケース別適用例、具体的なシミュレーションを用いた計算方法、手続きなどを解説します。
記事を読むことで、小規模宅地等の特例を踏まえた、住宅購入や節税対策などが行えるようになります。
それではさっそく見ていきましょう!
目次
相続税が減る?~小規模宅地等の特例の概要
家族や親類が亡くなると、土地の相続が行われます。
ご存じのように、土地の相続でも相続税という莫大な税金がかかるのです。
1億円の価値の土地だと、1,700万円以上の相続税がかかります。
小規模宅地等の特例とは、そんな相続税の負担を減らすための制度。
簡単に説明すると、土地の価格を下げて、相続税を抑えるのです。
土地の相続税は、土地や建物の価値、預貯金などを評価して決まります。
計算方法は、路線価方式による評価と倍率方式による評価の2つがあります。
どちらの計算方法でもいいのですが、小規模宅地等の特例を活用すると、土地の評価額が最大80%まで減少するのです。
ただし、誰でも小規模宅地等の特例を使えるというわけではありません。
小規模宅地等の特例を使えるのは、主に以下3つのパターンです。
・特定居住用宅地:被相続人の自宅として使っていた宅地
・特定事業用宅地:被相続人の事業用で使っていた宅地
・貸付事業用宅地:不動産や駐車場などの貸付に使っていた宅地
それぞれのパターンで、小規模宅地等の特例が適用される条件は、次の項で詳しく見ていきます。
ここまで読んでも、あまり具体的なイメージは伝わらないと思うので、簡単な計算をしてみましょう。
例えば、土地の価格が5,000万円で2,000万円の現金が残っていると、遺産総額は7,000万円となります。
小規模宅地等の特例を使用しなければ、相続税は以下の通りになるのです。
・7,000万円(遺産総額)-3,600万円(相続税の基礎控除額)=3,400万円
相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人数」の基礎控除額があります。
しかし、土地の価値は高額になるケースがほとんどなので、基礎控除額を上回るでしょう。
では、小規模宅地等の特例を使用すると、相続税はどこまで下がるのでしょうか?
土地の評価額が、5,000万円から1,000万円になったとしましょう。
すると、遺産総額は現金と合わせて3,000万円となり、相続税の基礎控除額を下回ります。
つまり、相続税の支払いがなくなるというわけです。
同じ遺産相続を受けるとしても、3,400万円の相続税を支払うのと、相続税の支払いがなくなるのは大きな違いですよね。
次は、3つのパターンで小規模宅地等の特例が適用される条件を見ていきます。
小規模宅地等が適用される条件とは
ここからは、小規模宅地等の特例が適用される人や限度面積、減額割合について見ていきます。
まずは自宅として使っていた土地、そして事業用で使っていた土地の場合の順に見ていきましょう。
自宅として使っていた土地の場合
亡くなった方(被相続人)の自宅がある土地が相続される場合、小規模宅地等の特例は適用されます。
多いのが、両親の自宅を子供が相続するケースですね。
しかし、亡くなった方と一緒に住んでいたのかどうかや土地の取得者によって、適用条件が異なるのです。
詳しく見ていきましょう。
適用される人は誰?
小規模宅地等の特例が適用されるのは、被相続人の配偶者と親族です。
【被相続人と住んでいた場合】
まずは、被相続人と共に住んでいた場合で、各人物の適用条件を見ていきます。
・配偶者:無条件で適用される
・親族:相続開始直前から相続税の申告期限まで居住して、申告期限まで所有している場合のみ適用
難しいので、具体例で見ていきましょう。
父と母、そして2人の子供がいる4人家族で、父が亡くなったとしましょう。
その場合、母は無条件で小規模宅地等の特例が適用されます。
子供は父と同居していた場合、相続税の申告期限まで居住と所有していると、特例が適用されるのです。
注意点は、どこまでを同居とみなすのか。
同居とは、同じ住宅内で日常生活を送ることです。
例えば、親族が以下のケースに該当する場合、同居とみなされません。
・毎週末だけ実家に帰省する
・亡くなるまで介護のため泊まり込んだものの、結婚していて暮らす家がある
・相続税の申告期限前に、引っ越しなどしてしまった
被相続人の息子が結婚して、自身の家があるものの、介護のために一定期間だけ実家に泊まったとしましょう。
その場合、何カ月住み込んだとしても、同居とはみなされないのです。
また、住民票を移したとしても、実際に同居していなければ小規模宅地等の特例は適用されません。
【被相続人と同居していない子供】
基本的には、被相続人と同居しているのが適用条件ですが、例外があります。
それが、配偶者のいない被相続人の宅地等を、同居していない親族が受け継ぐ場合です。
これは「家なき子」と呼ばれ、以下の要件を全て満たすと適用されます。
【平成30年3月31日以前】
・被相続人に配偶者や同居の親族がいない
・相続開始3年前に、親族は自己または配偶者の持ち家に住んでいない
・相続した土地を、相続税の申告まで保有
【平成30年4月1日以降】
・被相続人に配偶者や同居の親族がいない
・相続開始3年前に、親族は「自己または配偶者の持ち家」、「3親等以内の親族の持ち家」、「特別関係がある法人の持ち家」に住んでいない
・相続した土地を、相続税の申告まで保有
・相続開始時に、取得者が住んでいる住宅を所有したことがない
改正により、「家なき子」の適用条件が厳しくなりました。
例えば、平成30年4月1日以降では、以下のケースで小規模宅地等の特例は適用されないのです。
・親の持ち家に無料で住んでいた
・持ち家を売却してリースバックしていた
少しだけ条件が厳しくなったのは残念ですね。
では、具体的に家なき子が適用されるケースとそうでないケースを見ていきましょう。
配偶者と死別し、一人暮らししていた父親が亡くなり、息子が自宅を相続するとします。
息子が賃貸のマンションやアパートに住んでいるのならば、家なき子が適用されます。
対して、息子が父親の経営するアパートに入居しているなら、適用はされません。
また、父親と兄弟2人のケースを見ていきます。
父親と弟がともに住んでいて、兄は賃貸マンションで暮らしているとしましょう。
この場合、父と同居している弟は、所定の条件さえ満たせば小規模宅地等の特例が適用されます。
しかし、兄は賃貸マンションで暮らしていても、適用されません。
その理由は、被相続人に弟という同居人がいるからです。
親族の同居人がいる場合は、家なき子の特例は該当しません。
特定居住用宅地
特定居住用宅地で減額される割合は80%にもなります。
つまり、適用されると実質評価額は2割に収まるのです。
具体的に見ると、5,000万円の価値が1,000万円まで下げられるということ。
これほど大きな減額がされる理由は、宅地は遺された家族の重大な生活基盤となるから。
しかし、適用されるのは330㎡(約100坪)までと定められています。
例えば、宅地が400㎡ならば、330㎡まで80%減額となり、残りの70㎡は通常の課税率で計算されるのです。
121坪分ものの評価額が2割までに収まるので、大きな節税効果、場合によっては無課税となる可能性さえ十分にあります。
事業用で使っていた土地の場合
事業用で活用していた土地と一口に言っても、特定事業用宅地・特定同族会社事業用宅地・貸付事業用宅地の3つに分かれます。
それぞれで、特例の適用条件や減額される割合などが異なるのです。
適用される人は誰?
事業用で使っていた土地の場合でも、適用されるのは被相続人の親族が受け継いだ時です。
ただし、適用条件は土地の使い道によって異なります。
ここからは、詳しい適用条件や減額割合などを見ていきましょう。
特定事業用宅地
特定事業用宅地とは、被相続人が事業のために活用していた宅地のことです。
ただし、貸付事業と法人事業は除かれます。
よく見られるのが、肉屋や美容院などの個人商店ですね。
特例が適用される条件は次の通りです。
・被相続人が相続開始前から、土地で個人名義の事業を行っている
・相続税申告期限まで、その事業を営む(事業継承の場合)
・相続税申告期限まで、その土地を保有する(保有継続の場合)
特定事業用宅地の場合、減額される割合は80%で、限度面積は400㎡となっています。
減額率と限度面積は最も高いです。
特定同族会社事業用宅地
貸付事業を除く法人事業のために活用した土地を、被相続人の親族が受け継いだ時に適用されます。
ただし、被相続人もしくは親族が発行株式の50%以上を有している法人のみが対象となります。
特例が適用されるのは、親族が以下のいずれかに該当する時です。
・相続税の申告期限までに、その法人の役員となっている(法人役員要件)
・その宅地等を、相続税の申告期限まで保有している(保有継続)
減額率は80%までで、限度面積は400㎡になっています。
貸付事業用宅地
貸付事業用宅地とは、アパートや駐車場などの貸付事業のための宅地です。
これらの宅地を、被相続人の親族が受け継ぎ、次のいずれかに該当した場合に特例が適用されます。
・相続税の申告期限までに事業を引き継ぎ、申告期限まで貸し付け事業を行う(事業継承)
・宅地等を、相続税の申告期限まで保有する(保有継続)
減額率は50%で、限度面積は200㎡までとなっています。
こんな場合は適用される?よくあるケース別に見た5つの適用例
ここまで小規模宅地等の特例の基本について見てきました。
ここからは、もう少し踏み込んで複雑なケースを解説していきます。
例えば、二世帯住宅は同居とみなされ適用されるのか、生計が別々の場合などなど。
多くの方が悩む5つの適用事例を見ていきましょう。
同居していたが財布は別だったケース
すでに学んだ通り、小規模宅地等の特例適用の基本条件として、
・被相続人と同居している
・被相続人と生計を一にしている
ことが挙げられました。
「生計を一」とは、生活費を一緒にすることです。
例えば、父親が一人暮らししている大学生の息子に、生活費を送っていると生計を一にしています。
このように、同居をしなくとも、生計を一にできるのです。
では、同居していたものの財布が別だったケースは、適用されるのでしょうか?
例えば、夫婦で別々の生計を立てていたり、仕事をしている息子が親と同居していたりするシチュエーションが考えられます。
結論から言うと、同居しているなら別々の生計でも、小規模宅地等の特例が適用されるのです。
例えば、特定居住用宅地等の場合、被相続人と同居さえしていれば生計を一にする必要はありません。
今回のケースでは、「同居している」という事実が重要です。
二世帯住宅を相続したケース
二世帯住宅は、小規模宅地等の特例が少々複雑になります。
二世帯住宅での特例を考えるポイントは区分登記です。
区分登記とは、二世帯住宅を2つの住宅として登録すること。
最近はプライバシーを確保するために、1階部分を両親名義、2階部分を子名義で登録している方が増えています。
原則的に、区分登記をしている二世帯住宅では、小規模宅地等の特例は適用されません。
次の条件でシミュレーションをしてみます。
・1階父親名義
・2階息子名義
・住宅内部での行き来は不可能
この条件で父親が亡くなった場合、息子が特例を使用して相続することはできません。
息子は同居しているとみなされない、且つ持ち家を保有しているので、家なき子にも該当しません。
特例を使用できるのは、被相続人の配偶者もしくは被相続人と同居していた親族のみです。
対して、区分登記をしていなければ、多くの場合で特例は認められます。
例えば、内部の行き来が出来なくとも、建物の所有者が父親のみなら配偶者と息子は特例を使用できるのです。
正直なところ、二世帯住宅でわざわざ区分登記を行うメリットは少ないように思われます。
区分登記をしなければ、完全分離型の二世帯住宅でも小規模宅地等の特例は適用されるのです。
区分登記は解消方法があります。
まず各持ち分の2分の1の移転を行います。
その後に、建物の登記を共有状態にするだけです。
税制的には、区分登記をしない方が有利なので、ぜひ解消も検討してみてください。
亡くなる直前に老人ホームや病院で過ごしていたケース
老人ホームや病院で亡くなることは十分に考えられます。
その時、小規模宅地等の特例が適用されるのかどうか見ていきましょう。
【入院中に亡くなった場合】
原則的に、入院中に亡くなった場合、小規模宅地等の特例は適用されます。
その理由は、入院は退院を見込んで行われるからです。
病院で生活をしていても、生活の拠点は自宅と考えられるため、適用されるというわけ。
これは入院が長期間に及んでも同じです。
ただし、入院期間中に以下のことを行うと、適用されない可能性があります。
・家を貸し出しに出す
・被相続人の荷物を処分する
他にも、被相続人が家に戻ってこないと想定した行動をとると、小規模宅地等の特例は適用は認められないかもしれません。
また、被相続人が入院期間中に親族が家に移り住んでも、同居とはみなされないので要注意。
入院中に亡くなった場合に、小規模宅地等の特例が適用されるのは以下のいずれか。
・配偶者が相続する
・同居していた親族が相続する
・家なき子
【老人ホームで亡くなった場合】
老人ホームで亡くなった場合、前提条件として以下の全てを満たす必要があります。
・要介護認定もしくは要支援認定を受けている
・老人福祉法等に規定する老人ホーム等に住んでいた
この条件を満たせば、被相続人の配偶者や同居していた親族が小規模宅地等の特例を使用できます。
また、被相続人に配偶者や同居人がいない場合、家なき子が適用可能です。
そのため、80%の減額となります。
小規模宅地等の特例が適用される主なパターンは以下の通りです。
・被相続人の配偶者が相続(80%)
・被相続人と同居していた親族が相続(80%)
・家なき子が適用(80%)
・老人ホーム入居後に、自宅を貸し付けている(50%)
多くのケースで適用されますが、1つだけ注意するべきケースがあります。
それが、老人ホーム入居後に生計を共にしない親族が家に移った場合です。
例えば、父親が老人ホームに移った後、生計を別にする息子夫婦が自宅に住みこむことです。
この場合だと、同居とみなされないため、息子夫婦が相続しても小規模宅地等の特例は適用されません。
息子夫婦が特例を使用するためには、被相続人が老人ホームに移る前から、共に生活を送る必要があるのです。
青空駐車場として利用していたケース
貸付事業用宅地は、事業と称するまでもない準事業も含まれます。
そのため、駐車場も小規模宅地等の特例が適用される可能性があるのです。
しかし、駐車場の適用条件は非常に複雑で、中には認められないケースがあります。
認められないケースの代表格が、青空駐車場です。
駐車場で特例が適用されるためには、駐車場の敷地内に構造物がある必要があります。
構造物とは、アスファルト塗装や砂利、精算機などのこと。
そのため、ロープで張っただけ、止め石を置いただけの青空駐車場は認められないのです。
例えば、10台分の駐車場スペースがあって、4台分だけアスファルトが敷いてあり、残りは土だとしましょう。
すると、小規模宅地等の特例が適用されるのは、4台分だけの駐車場なのです。
また、駐車場は貸付事業用宅地とみなされるため、自家用車の駐車場は適用されません。
駐車場の適用要件は複雑なので、よくあるパターンを下にまとめました。
・構造物のある空き駐車場(50%減額)
・構造物が会社などの第三者負担の駐車場(50%減額)
・自家用車を停めている駐車場(自家用車駐車部分以外50%減額)
・青空駐車場(適用されない)
・親族に割安で貸している駐車場(適用されない)
駐車場の特例要件のポイントは、構造物の有無です。
構造物があって、親族以外に貸付しているのならば、基本的に認められるでしょう。
ただし、平成30年度に租税改正が行われ、貸付事業は3年以上事業を行っているものだけが認められることになりました。
つまり、被相続人の死亡直前に、貸付事業を行っても特例は適用されないのです。
相続した後に転業したケース
特定事業用宅地等は、相続税の申告期限まで宅地を保有して、事業を継続した場合、400㎡の土地が80%減額されました。
では、事業を継続するのではなく、申告期限までの間に転業した場合はどうなるのでしょうか?
このケースを考えるうえで重要なのは、転業後も事業が継続されているかどうかです。
例えば、八百屋が一部をコンビニ業にしたのなら、引き続き八百屋事業は継続されるとみなされます。
つまり、小規模宅地等の特例は適用されるのです。
対して、飲食店をコンビニなどに変えた場合、元の事業は継続されません。
そのため、事業を継続していないとみなされ、特例は使用できないのです。
完全に違う事業に転業するとアウトですが、元の事業も継続する転業だと問題ありません。
転業のケースは複雑で曖昧なので、可能な限り申告期限までは事業を継続しておくのがおすすめです。
小規模宅地等の特例の計算方法をシミュレーション
小規模宅地等の特例を見てきましたが、計算方法がピンとこない方もいるでしょう。
そこでここからは、特定事業用宅地・特定居住用宅地・貸付事業用宅地の具体的な計算方法と相続税額を、様々な条件で見ていきます。
次の項で複数土地を相続した場合の計算方法を解説するとして、ここでは基本的な計算をマスターしましょう。
特定事業用宅地
特定事業用宅地は、400㎡まで80%減額されましたよね。
このことを頭に入れて、様々なシチュエーションで計算してみます。
【土地の価格4,000万円、400㎡】
4000万円×80%=3,200万円
この条件だと3,200万円の減額、つまり土地の価格は4,000万円から800万円まで下がりました。
相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)なので、資産が土地だけなら相続税はかかりません。
【土地の価格4,000万円、500㎡】
土地の面積が限度面積を超えた場合は、計算が少しだけ難しくなります。
まずは、限度面積から実際の面積を割って、小規模宅地等の特例を適用できる面積の割合を出す必要があります。
・330㎡÷500㎡=0.66㎡
計算の結果、実際の土地の66%に特例が適用されると判明しました。
次に行うのが、特例が適用される土地の評価額。
土地の価格は4,000万円ですが、この4,000万円の66%にしか特例は適用されません。
・4,000万円×0.66㎡=2,640万円
この2,640万円に80%の減額が適用されます。
・2,640×80%=2,112万円
2,112万円が減額されるので、土地の評価額は以下の通りになります。
・4,000万円-2,112万円=1,888万円
少し複雑ですが、順に追って計算すれば難しくはないですね。
【相続人2人、土地価格6,000万円、土地面積600㎡】
相続人が複数いる場合は、相続人間の話し合いのうえ、限度面積の400㎡まで減額を得られます。
例えば、兄が500㎡(5,000万円)、弟が100㎡(1,000万円)相続したとしましょう。
この場合、弟も減額を得るのかどうかで計算方法が変わります。
・弟が特例を使用しない
弟が小規模宅地等の特例を使用しない場合、兄は限度面積400㎡すべてを自身の相続土地に活用できます。
相続する500㎡は限度面積を超えているため、特例が適用される土地の割合を出しましょう。
・400㎡÷500㎡=0.8
特例が適用されるのは、相続する500㎡の80%と分かりました。
相続する土地の評価額は5,000万円で、そのうち80%のみ減額されます。
・5,000万円×0.8=4,000万円
結果、兄の土地の評価額は、5,000万円から4,000万円を差し引いた1,000万円になると判明しました。
・弟が特例を使用する
弟が100㎡の土地に特例を適用する場合、兄は400㎡から100㎡を差し引いた300㎡分だけ特例を適用できます。
兄に割り当てられた300㎡に、相続する500㎡を割って、特例が適用される土地の割合を出します。
・300㎡÷500㎡=0.6
5,000万円の土地価格の60%にだけ、特例が適用されます。
・5,000万円×0.6=3,000万円
この3,000万円に80%の減額が適用されるということですね。
兄と弟の減額は以下の通りです。
・兄:3,000万円×80%=2,400万円
・弟:1,000万円×80%=800万円
相続人が複数人いても、限度面積は増加しないので気をつけましょう。
特定居住用宅地
特定事業用宅地は、330㎡までに80%の減額が行われます。
そのため、基本的な計算方法は特定事業用宅地と同じです。
【土地の価格5,000万円、300㎡】
5,000万円×80%=4,000万円
4,000万円減額されるので、土地の評価額は1,000万円まで下がりました。
法定相続人の数が1人の場合、総資産額は3,600万円を超える限り、相続税の支払いは不要です。
つまり、このケースでは2,600万円まで資産に余裕があります。
【土地の価格7,000万円、600㎡】
600㎡のうち330㎡まで、小規模宅地等の特例が適用されます。
まずは、特例を適用できる面積の割合を出すために、限度面積を実際の土地の面積で割ります。
・330㎡÷600㎡=0.55㎡
特例が適用されるのは、土地の価格7,000万円分の55%なので、
・7,000万円×55%=3,850万円
3,850万円分の土地に80%の減額が適用されると判明しました。
・3,850万円×80%=3,080万円
3,080万円が減額されるので、土地の評価額は7,000万円-3,080万円の3,920万円にまで下がりました。
貸付事業用宅地
貸付事業用宅地は200㎡までに50%の減額が適用されます。
【土地の価格3,000万円、面積150㎡】
このパターンは大丈夫ですよね。
実際の面積が限度面積を超えていないので、土地の価格に50%をかけるだけです。
土地の価格の半額、つまり1,500万円にまで評価額は下がりました。
【土地の価格5,000万円、面積400㎡】
限度面積200㎡を超えているので、まずは特例を適用できる面積の割合を計算します。
・200㎡÷400㎡=0.5
特例が適用される土地の評価額は、3,000万円の0.5%である1,500万円です。
そして、減額割合は50%なので、減額される金額は以下の通り。
・1,500万円×50%=750万円
土地の価格5,000万円から750万円を引いた4,250万円が評価額となります。
小規模宅地等の特例は複数の土地の場合でも併用できるのか?
これまで1つの土地を相続すると仮定してきましたが、人によっては複数の土地を相続する可能性もあります。
よく見られる複数住宅の組み合わせは以下の通りです。
【住宅土地+住宅土地】
これは被相続人が2つの住宅を持っているケースです。
もし被相続人がメインの家に住みつつ、週末だけもう1つの家に住んでいた場合、メインの家にしか小規模宅地等の特例は適用されません。
両方の住宅土地に特例を適用するためには、1つの家に生計を一にする親族が住んでいる必要があるのです。
そうすると、2つの土地合わせて330㎡まで80%の減額が行われます。
少しでも節税したいのなら、1㎡あたりの土地価格が高い方を優先して、減額するといいでしょう。
【住宅土地+人に貸し付けている土地】
被相続人が住宅の他、アパートなど貸し出ししている土地があるケースです。
このケースは次のように特例が適用されます。
・住宅土地:330㎡まで80%減額
・貸し出し土地:200㎡まで50%減額
ただし、居住用宅地と貸付事業用宅地を併用する場合は、以下の範囲の面積しか適用されません。
居住用宅地の面積×200÷330+貸付事業用宅地の面積≦200㎡
【住宅土地+別荘】
住宅と別荘を持っている方は少ないでしょう。
しかし、別荘は小規模宅地等の特例対象となりません。
そのため、住宅土地330㎡まで80%にしか適用されないのです。
別荘を適用対象にしたい場合は、別荘を貸付事業用宅地にする必要があります。
【広大地との併用】
広大地とは、その名の通り広い土地のことで、以下3つの要件すべてを満たすと認定されます。
・開発許可面積以上(三大都市圏500㎡以上、それ以外1,000㎡以上)
・開発行為をする時、開発道路が必要な土地
・マンションや大規模工業地域を建てるのにふさわしくない
広大地と認められると、最大で65%土地の評価額が減額されるのです。
そして、広大地と小規模宅地等の特例の併用は可能。
具体例で見ていきましょう。
土地の面積1,000㎡、土地の評価額3億円の居住用宅地を相続するとします。
この居住用宅地は広大地と認定されたので、65%の減額を受けるのです。
・3億円×65%=1.95億円
1.95億円の減額を受けるため、広大地適用後の土地の評価額は、以下の通りになります。
・3億円-1.95億円=1億5百万円
さらに、小規模宅地等の特例が適用されるので、その計算をしましょう。
居住用宅地で適用されるのは、330㎡までなので、特例が適用される土地の割合を出します。
・330㎡÷1,000㎡=0.33
土地の評価額1億5百万円の33%に特例が適用されるため、減額は以下の通りです。
・1億5百万円×0.33=34,650,000円
つまり、広大地と小規模宅地等の特例を併用した結果、土地の評価額は70,350,000円となります。
首都圏なら広大地とみなされる可能性は高いので、併用を検討しましょう。
小規模宅地の特例を受ける手続き
小規模宅地等の特例を受けるためには、書類を集めて管轄の税務署に提出する必要があります。
必要書類は区分によって必要書類が異なりますが、どの区分で特例を受けるとしても、以下の書類は必要です。
・戸籍謄本
・住民票の写し
・遺言書の写しもしくは遺産分割協議書
・相続税申告書
・相続人全員の印鑑証明書
そして、必要に応じて以下の書類が必要となります。
【被相続人が老人ホームにいた場合】
・被相続人の戸籍附票写し
・介護保険の被保険者写し
・老人ホーム入所の契約書の写し
【別居の親族が相続する場合】
・戸籍附票写し
・相続家屋の登記簿謄本など
必要書類は異なる可能性もあるので、事前に国税庁のホームページで最新の情報を確認する、もしくは税務署に直接尋ねるようにしてください。
小規模宅地等の特定を受ける際の注意点
すでに簡単に触れましたが、平成30年の租税改正で小規模宅地等の特例も変化しました。
変化したのは2点のみですが、理解していないと特例を受けられなくなるので要注意です。
1点目の変化が、家なき子の適用条件が厳しくなったこと。
以前は意図的に持ち家のない状態にして、家なき子を適用できました。
しかし、次の2点が適用条件に加えられたので、意図的に持ち家のない状態を作れなくなったのです。
・相続直前の3年以内に、3親等以内の親族もしくは特別の関係がある法人の家に入居していない
・相続開始時に居住していた住宅を過去に所有していない
そして、2つ目の変化が貸付事業についてです。
改正後、相続開始前3年以内に貸付事業を行った場合は、適用対象外となりました。
つまり、相続税対策として急いでマンションを購入したり、アパート建設をしたりしても小規模宅地等の特例は適用されません。
この貸付事業についての改正は要注意点です。
しかし、3年以上前から事業として貸付事業を行っているならば、3年以内に貸付を開始した物件でも、小規模宅地等の特例は適用されます。
もし改正を知らずに、小規模宅地等の特例での節税対策を考えていたのなら、再検討する必要があるでしょう。
まとめ
最後まで読んでくださりありがとうございます!
もう一度、小規模宅地等の特例のポイントをおさらいしましょう。
・土地の価格を最大で80%まで下げる
・平成30年4月1日以降は適用条件が厳格化された
・完全二世帯住宅でも80%の減額可能
今回で小規模宅地等の特例の知識は、ばっちりと身に着けられたはずです。
しかし、実際に適用されるのかどうかの判断を、自分で行うのは難しいかもしれません。
そのため、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。