寡婦控除の要件とは?現役FPが表やフローチャートでわかりやすく解説!
「寡婦控除」という言葉をご存知でしょうか?
死別や離別で独り身となった方やシングルマザーになった方に対して設けられている税制上の仕組みのことで、もしかしたらあなたの周りの方でも寡婦控除を受けている方がいるかもしれません。
ですが、こうした寡婦控除は誰が受けられて、いくら得をするのか、といった内容の詳細までご存知の方は少ないでしょう。
そこで、この記事では寡婦控除を徹底解剖し、表やフローチャートも用いて詳しく解説していきます。
今では「寡夫控除」として、男性でも受けられる仕組みとなっていますので、その点も合わせて解説していきます。
目次
寡婦控除の概要
寡婦控除とは、納税者である方である一定の条件に該当する方は、一定の所得控除を受けることができるという税制上の支援措置のことを言います。
1951年に創設された制度で、下記に出てきます「特別寡婦加算(特別の寡婦控除)」という控除額の拡大適用が1989年に追加されました。
参照記事⇒寡婦控除及び寡夫控除についてー今後の見直しに向けた諸課題ー|参議院
結婚後に独り身やシングルマザーとなった方は、家事育児をしながら制約がある中で働いていくので、どうしても仕事の内容や働き方の選択肢も狭くなってしまう結果、低所得になりやすいのが実情です。
そういった対象となる方は寡婦控除を受けることで、控除される税金が少なくなり、控除を受けない方よりも同じ年収でも手取り額が増えるという仕組みになっています。
一般の寡婦控除に該当する人の要件
それでは、こうした寡婦控除はどういった場合に受けることができるのでしょうか。
国税庁のホームページによれば、一般寡婦控除の要件は下記の通りです。
一般の寡婦とは、納税者本人が、原則としてその年の12月31日の現況で、次のいずれかに当てはまる人です。
(1) 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない人、又は夫の生死が明らかでない一定の人で、扶養親族がいる人又は生計を一にする子がいる人です。この場合の子は、総所得金額等が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族となっていない人に限られます。
(2) 夫と死別した後婚姻をしていない人又は夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人です。この場合は、扶養親族などの要件はありません。
(注)「夫」とは、民法上の婚姻関係にある者をいいます。
※上記文中の「合計所得金額」とは、株等での損益計算をする前段階の、全勤務先の給与総額や株の売却や配当で受ける金額、また退職金や不動産所得等々、年間で受け取れた全ての所得の総額を指します。
参照記事⇒No.1,170 寡婦控除|国税庁
※上記文中の「総所得金額等が38万円以下」とは、給与所得で言えば103万円以下のことを言います。
その年の給与収入が103万円以下であれば、給与所得控除額65万円ですので、これを差し引くと、合計所得金額が38万円以下となり、配偶者控除が受けられます。
結婚した後何がしかの事情で独り身(もしくはシングルマザー)となった場合に、寡婦控除の対象になる可能性があるということですね。
その中でも、合計所得金額に基準が設けられていることからもわかるように、この控除の趣旨としては、経済弱者になる可能性が高い方に対して税額控除をするというものです。
例えば不動産や株等で一定額の所得が確保されている方は対象外となりますので、その点にご注意ください。
ちなみに、一般寡婦控除を受ける場合には、所得税で毎年27万円分、住民税で毎年26万円分の税額控除が受けられます。
参照記事⇒寡婦控除及び寡夫控除についてー今後の見直しに向けた諸課題ー|参議院
特別の寡婦控除に該当する人の要件
一般の寡婦控除とは別に、特別の寡婦控除というものもあります。
こちらも、国税庁のホームページにある説明を引用します。
一般の寡婦に該当する人が次の要件の全てを満たすときは、特別の寡婦に該当します。
(1) 夫と死別し又は夫と離婚した後婚姻をしていない人や夫の生死が明らかでない一定の人
(2) 扶養親族である子がいる人
(3) 合計所得金額が500万円以下であること。
一般の寡婦控除とは違い、要件「全て」に該当する場合に適用となります。
上記1〜3に該当する場合は、より一層生活が大変であろうということですね。
控除金額も一般の時よりも多く、所得税で35万円分、住民税で30万円分の控除が受けられます。
参照記事⇒寡婦控除及び寡夫控除についてー今後の見直しに向けた諸課題ー|参議院
寡夫控除の概要
寡夫控除とは、その言葉通り、「夫」つまり男性側においても一定の条件によっては税額控除が受けられるということです。
寡婦控除が創設されたのが1951年なのに対し、寡夫控除は1981年の創設と30年も遅れてできた制度です。
参照記事⇒寡婦控除及び寡夫控除についてー今後の見直しに向けた諸課題ー|参議院
適用の条件も、寡婦控除より厳しめな基準となっています。
寡婦控除と似たような表記になっていますので、下記の該当要件を見ながら、寡婦控除と何が違うのかを説明します。
寡夫控除に該当する人の要件
国税庁のホームページに、寡夫控除の要件があります。
寡夫とは、納税者本人が、原則としてその年の12月31日の現況で、次の三つの要件の全てに当てはまる人です。
(1) 合計所得金額が500万円以下であること。
(2) 妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていないこと又は妻の生死が明らかでない一定の人であること。
(3) 生計を一にする子がいること。
この場合の子は、総所得金額等が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限られます。
(注) 「妻」とは、民法上の婚姻関係にある者をいいます。
そして、寡夫控除適用となる場合、税額控除として所得税で毎年27万円分、住民税で26万円分の控除が受けられます。
参照記事⇒寡婦控除及び寡夫控除についてー今後の見直しに向けた諸課題ー|参議院
寡婦控除と比べると、適用基準は「特別の寡婦」に相当する内容(上記要件の全て当てはまる方が対象)なのに、受けられる控除は「一般の寡婦」と同じ27万円分ということで、こうした点に男性の支援にはまだ厳しさを感じますね。
寡婦(夫)控除の要件を表とフローチャートでまとめました
今までで見てきました寡婦控除と寡夫控除の要件を、下記表とフローチャートにて改めて図示していきます。
改めて、ご自身の場合にどうなるか、ご確認ください。
【寡婦(夫)控除要件まとめ】
該当条件(家族構成) | 該当条件(所得条件) | 控除額(所得税) | 控除額(住民税) | |
一般の寡婦控除① | 夫と死別してその後
結婚していない場合 |
合計所得金額
500万円以下 |
27万円 | 26万円 |
一般の寡婦控除② | 夫と死別、離別、又は生死が不明な状況でその後結婚を
せず、扶養親族もしくは生計を一にする子供がいる場合 |
子供の総所得金額等が
38万円以下で、 かつ他の世帯の 扶養に入っていないこと |
||
特別の寡婦控除 | 夫と死別、離別、又は生死が
不明な状況でその後結婚を せず、扶養親族である子供が いる場合 |
合計所得金額
500万円以下 |
35万円 | 30万円 |
寡夫控除 | 妻と死別、離別、又は生死が不明な状況でその後結婚を
せず、生計を一にする子供が いる場合 |
本人の合計所得金額
500万円以下 かつ、 子供の総所得金額等が38万円以下で、かつ他の世帯の 扶養に入っていないこと |
27万円 | 26万円 |
【寡婦(夫)控除要件フローチャート】
寡婦(夫)控除を受けられると具体的にいくらお金の負担が減るのか?
実際の寡婦控除の適用で、いくらお金の負担が減る(税金が戻ってくる)のか計算してみます。
基本条件を、
・年収280万円(月額給与20万円、賞与夏冬各1ヶ月分として計算)の給与所得者
・30歳女性
・社会保険料年額40万円(東京都で月収20万円で見た場合の社会保険料額28,700円を、賞与も含めて便宜上14ヶ月分として計算)
参照記事⇒平成31年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
・生命保険控除や医療費控除等、その他の控除は無し
として計算して、
①単身者の場合【所得税】
②一般の寡婦に相当する1人の生計を一にする子供を持つ母親の場合【所得税】
③単身者の場合【住民税】
④一般の寡婦に相当する1人の生計を一にする子供を持つ母親の場合【住民税】
でそれぞれ見ていきます。
①単身者の場合【所得税】
まずは課税対象となる所得金額を算出します。
1つ目の「給与所得控除」が、1,800,000円以上3,600,000円以下に該当するので、「収入金額×30%+180,000円」にて計算し、1,020,000円となりました。
参照記事⇒No.1,410 給与所得控除|国税庁
2つ目の「基礎控除」は、全員一律380,000円です。
参照記事⇒No.1,199 基礎控除|国税庁
3つ目に、社会保険料は支払った分全て税額計算から控除されますので、400,000万円です。
これら3つを足すと、合計1,800,000円の控除となります。
2,800,000円の年収から差し引き、結果、1,000,000円の課税対象額に対して所得税がかかります。
所得税率は、1,950,000円までは控除後の所得に5%かかりますので、50,000円の所得税がかかるという結果になります。
※また、「復興特別所得税」というものがこの50,000円に2.1%の税率で算出される金額分を上乗せられるので、最終的な所得税は51,000円となります。
参照記事⇒No.2,260 所得税の税率|国税庁
②一般の寡婦の場合【所得税】
給与所得控除、基礎控除、社会保険料は①と同様で、ここまでで合計控除額が1,800,000円です。
ここに加えて寡婦控除の270,000円を合わせ、2,070,000円の控除となり、結果730,000円の課税対象額に対して所得税がかかります。
上記同様5%の税率計算なので、結果、36,500円(復興特別所得税の700円を合わせ、37,200円)が最終的な所得税となります。
③単身者の場合【住民税】
住民税は、各自治体により、税金額が大きく異なります。
そこで今回は、参考として東京世田谷区に居住している場合で算出します。
1つ目に、給与所得を算出します。
給与所得控除は上記と同様なので、2,800,000円に対して1,020,000円を引き、1,780,000円となります。
2つ目に、各種所得控除を引いていきます。
住民税の計算においては、
・基礎控除:330,000円
・一般の寡婦控除:260,000円
・社会保険料控除:全額(今回は400,000円)
となり、所得税の時の控除額と若干異なりますので注意です。
③においては基礎控除と社会保険料控除のみなので、730,000円となります。
先ほどの1,780,000円から引き、合計1,050,000円が課税対象額となります。
3つ目として、ここから住民税額を算出していきますが、住民税額は、「都道府県民税」と「市区町村民税」を足したものに、「調整控除」というものを最後引いたものとなります。
世田谷区では一般的な総合課税として、
・都民税率4%+1,500円(1,050,000円の場合、43,500円)
・区民税率6%+3,500円(1,050,000円の場合、66,500円)
となります。
続いて調整控除ですが、課税所得2,000,000円以下の場合には、次の2つのうちのどちらか少ない金額に対して5%(都民税2%分、区民税3%分)の計算を加えた金額となります。
・住民税と所得税の「人的控除額(基礎控除や寡婦控除等)の差」の合計:50,000円
・合計課税所得金額:1,050,000円
よって、50,000円の5%である、2,500円(都民税1,000円分、区民税1,500円分)がマイナス調整となります。
これらより、
・都民税:43,500ー1,000=42,500円
・区民税:66,500ー1,500=65,000円
となり、住民税合計が、107,500円となります。
参照記事⇒住民税について|世田谷区
④一般の寡婦に相当する1人の生計を一にする子供を持つ母親の場合【住民税】
基本的な流れは③と同様で、1つ目の給与所得控除で1,780,000円となり、2つ目で寡婦控除もくわわり、控除額が990,000円となります。
1,780,000から990,000円を引き、790,000円が課税対象額となります。
3つ目の算出ですが、
・都民税=33,100円
・区民税=50,900円
となります。
次に調整控除額ですが、
・所得税との人的控除額:(寡婦控除の1万円も加わり)60,000円
・合計課税所得金額:790,000円
となり、少ない方の60,000円の5%である、3,000円分(都民税1,200円分、区民税1,800円分がマイナス調整となります。
結果として、
・都民税:33,100ー1,200=31,900円
・区民税:50,900ー1,800=49,100円
となり、住民税合計が、81,000円となります。
改めて金額を整理しますと、
・単身者の場合、①(51,000円)と③(107,500円)で合計158,500円
・一般の寡婦の場合、②(36,500円)と④(81,000円)で合計117,500円
となり、同じ年収でも年間41,000円の税額の違いが出ることがわかりました。
寡婦(夫)控除のみなし適用とは?
一口に「ひとり親(シングルマザーやシングルファザー)」と言っても、
・既婚者であり、その後ひとり親になった場合
・結婚をせず、非嫡出子(法律的に婚姻関係の無い男女の間に生まれた子)をひとりで育てている場合
と、2通りに分かれます。
今まで述べてきました「寡婦(夫)控除」は、上記2通りのうち上のケース(既婚後のひとり親)のみに適用される制度なのです。
前述の寡婦(夫)控除の概要にて説明しました通りですが、所得税法上、寡婦(夫)の定義として婚姻関係があったことが前提に成り立つ制度だということですね。
したがって、「出産はしたけど相手方はいなくなってしまい、ひとりで育てている」といった場合には、法律上の婚姻関係が無いので、側から見れば同じひとり親なのですが法律上では「寡婦(夫)」に該当しないという不条理な現実が生まれています。
前述の通り、やはり寡婦(夫)控除での税額控除を受けられることで手取り額は変わってきますし、それでも表面上の所得が同じならば、寡婦(夫)控除を受けていないひとり親も保育園等の行政サービスを利用するのは同じ金額かかります。
こうした状況を改善すべく、内閣府が「ひとり親家庭に対する支援」と称して、未婚のひとり親に対しても行政サービス等の利用時に寡婦(夫)控除と同額相当の控除がなされるように呼びかけました。
参照記事⇒ひとり親家庭に対する支援|内閣府
これが、寡婦(夫)控除の「みなし適用」です。
「みなし」という言葉通り、あくまでもひとり親家庭に必要な各自治体でのサービス利用時に対して所得を控除して利用額を算出する、といった適用に限られております。
法律上「寡婦(夫)」でないのは事実なので、既婚のひとり親と同様に実際の税額控除を受けて手取りも増える、ということはありませんのでご注意ください。
それでも、例えば保育園は親の所得額に応じて利用料が変わったりしますので、このみなし適用で出費が減るのは間違いなく、未婚のひとり親家庭に対する環境改善に繋がるのは確かですね。
また、寡婦(夫)控除のみなし適用の運用に関しては各自治体に任せられているので、あなたの自治体ではどのような運用なのかは、自治体ホームページを見たり直接問い合わせてみましょう。
寡婦(夫)控除の年末調整の書き方(会社員)
それでは、実際に寡婦(夫)控除を受けるための方法を確認しましょう。
まずは、会社員として働いている方を対象にした年末調整の書き方についてです。
年末調整の書類は、10〜11月のタイミングで働いている企業の総務経理の方からもらえるところも多いかと思いますが、国税庁のホームページからもダウンロードできます。
ダウンロード先⇒https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h31_01.pdf
年末調整用紙は両面刷りの1枚の用紙なのですが、寡婦(夫)控除を記入する箇所は表面の下記赤枠部分です。
まず、赤枠部分を拡大します。
赤の下線部の、該当する部分にチェックを入れます。
次に青枠部分を拡大します。
この「左記の内容」の枠欄に、上記のチェックを入れた根拠を記載していきます。
記載する内容は、年末調整の用紙裏面に記載がありますので、抜粋します。
(8) 「左記の内容」欄には、それぞれ次の事項を記載してください。
イ〜中略〜
ロ 寡婦又は寡夫……死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の平成31年(2019年)中の所得の見積額などの寡婦又は寡夫に該当する事実。また、3の「11寡婦」のロに掲げる寡婦、「12特別の寡婦」又は「13寡夫」に該当する人については、これらのほか平成31年(2019年)中の所得の見積額
ハ〜中略〜
結果として、この青枠部分には、
①「死別」or「離婚」or「生死不明」
②それぞれ下記の通り。
一般の寡婦:扶養親族や、生計を一にする子供の「名前(続柄も)」「2019年の所得の見積額」
特別の寡婦:扶養親族である子供の「名前(続柄も)」「2019年の所得の見積額」
寡夫:生計を一にする子供の「名前(続柄も)」「2019年の所得の見積額」
③それぞれ下記の通り。
一般の寡婦(扶養親族や生計を一にする子供がいない場合):自分の「2019年の所得の見積額」
特別の寡婦、寡夫:自分の「2019年の所得の見積額」
上記最大3点を記載する必要があります。
例えば、特別の寡婦に該当する女性(離婚にてひとり親になり、自身の所得見積額300万円、未就学児1名扶養している場合)であれば、
⇒「離婚 ◯◯△△(子 所得の見積額 0円) 所得の見積額 300万円」
と、この青枠部分に記載するということですね。
寡婦(夫)控除の確定申告の方法(個人事業主、フリーランス)
次に、個人事業主やフリーランスの方で、ご自身で確定申告をしなければならない場合の書き方を確認しましょう。
確定申告は、カレンダーにより前後しますが、基本は毎年2月16日〜3月15日までの1ヶ月間にて行われます。
上記期間に、原則住民票のある住所の管轄になる税務署宛に確定申告を行います。
住民票の住所と実際の居住地が違う場合等は、客観的に普段居住していると判断できる先の税務署宛に行います。
参照記事⇒No.2,029 確定申告書の提出先(納税地)|国税庁
それでは、書き方を見ていきます。
まず用紙の1枚目の緑枠に、ご自身が該当する控除金額を記入します。
(右が拡大したものです。)
続いて2枚目の緑枠に、該当する内容のチェックを入れて、完了です。
(右が拡大したものです。)
寡婦(夫)控除を受ける際に気を付けたい3つのポイント
実際の寡婦(夫)控除の申告方法まで見てきましたが、実際に控除を受けるにあたっていくつか注意点をお伝えします。
・「生計を一にする」という点
国税庁の定義を引用しますと、下記の通りです。
◆生計を一にする
日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、①生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、②日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
引用_◆生計を一にする|国税庁
この定義からわかるように、必ずしも一緒に暮らしていなくても良いということです。
「大学生の子供がいて仕送りをしているけど、一緒に住んでいないから寡婦(夫)控除は受けられないよね…」といったケースでは、実は控除を受けられる場合もあるということですね。
反面、この「生計を一にする」というのは、上記の通りいわば「生活する上でのお財布が一緒かどうか」が重要なポイントですので、例えば同居している子供がいるけれど、その子を扶養してくれている(学費や生活費の工面をしてくれている)人が自分ではないといった場合には、寡婦(夫)控除を受けられないということですので注意してください。
・事実婚や同性婚の場合
既に記載してきましたように、寡婦(夫)控除を受けられる前提条件は、法的な男女間の婚姻関係がある場合です。
ですので、婚姻届の提出がない事実婚や、いわゆる「パートナー関係」としての同性婚等は、こうきた法的な婚姻の証明にはなりません。
残念ですが、こうした場合には税額控除としての寡婦(夫)控除は受けることができません。
(こちらも前述の通り、自治体によっては「みなし適用」を受けられる可能性があります。)
・「養育費」が絡む場合
例えば離婚を経て元妻側が子供を引き取り、元夫が毎月養育費を支払っている場合には、元夫側にも、子供と「生計を一にする」と見なされ寡婦(夫)控除を受けられることがあります。
【照会要旨】
離婚後、元妻が引き取った子(16歳)の養育費を元夫が負担しているときは、その元夫と子は「生計を一にしている」と解して、元夫の扶養控除の対象として差し支えありませんか。
【回答要旨】
離婚に伴う養育費の支払が、①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われるものである場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしている」ものとして扶養控除の対象として差し支えありません。
つまりは、こうした場合にどちらにも寡婦(夫)控除を受けられる可能性があるということですね。
養育費を払う立場になっている方は要チェックです。
寡婦(夫)控除に関するQ&A
最後に、寡婦(夫)控除を受けるにあたってよくある質問をまとめました。
それぞれ回答も添えてありますので、ぜひ参考にしてみてください。
寡婦(夫)控除はいつからいつまで受けられる?
結論を先に述べますと、受給者側の年齢制限は原則ありません。
前述の通りですが、国税庁における寡婦(夫)控除の条件が、「納税者本人が、原則としてその年の12月31日の現況で、次のいずれかに当てはまる人です。」という前提の上で成り立っていました。
つまりは、毎年12月31日の段階で、寡婦(夫)控除を受ける要件に該当していれば毎年申請が可能で、「いつまで」の部分に制限はないということですね。
ちなみに、「納税者本人が」とありますので、厳密に「いつから」というのは、納税の義務が生じる20歳を過ぎてからとなります。
寡婦(夫)控除はアルバイトでも受けられる?
結論としては、受けられる場合と受けられない場合(受ける意味がない場合)がありますが、原則受けられると認識しておきましょう。
その理由は、通常人を雇用する企業側の義務として、納税が必要な一定金額を超える雇用をした場合、その人たちに対して給与を支給する際に、税金を差し引いておく必要があるからです。
アルバイトでも、正社員やその他社員と同様に、給与所得者として考え方は一律だということですね。
アルバイトやパートとして雇用されている場合、原則月額88,000円以上の収入がある際には税金が引かれています。
ですが、この月額88,000円という金額は、単身者や主人の扶養に入っている主婦等、税額計算上所得税がかかってくる最低ラインに過ぎず、一番控除が少ない立場としてでも受けられる控除(給与所得控除、基礎控除)の金額を超えた場合を指します。
参照記事⇒No.1,410 給与所得控除|国税庁
参照記事⇒No.1,199 基礎控除|国税庁
ですので、この月額88,000円を下回る給与収入の場合は、仮に寡婦(夫)控除の条件に該当していても、基本的な控除のみで税額免除されており、申請の必要がないということですね。
一方で、月額88,000円を超える収入の際は、寡婦(夫)控除を加えることで更に税額免除や減額の幅が広がりますので、この場合には寡婦(夫)控除を申請すれば効力が発揮されます。
寡婦(夫)控除の源泉徴収額はどうやって計算する
寡婦(夫)控除の源泉徴収額は、基本的に毎月の給与収入等で反映はされていませんので、毎年の年末調整や確定申告の中で払い過ぎている分の還付を受けるという手順が必要となります。
ですが、参考値として、前述の「給与所得の源泉徴収税額表」という国税庁が出している表にて、寡婦(夫)控除を受けられる場合の源泉徴収額を把握することができます。
例えば月額収入20万円で扶養親族が1人いるという30歳女性の場合を想定します。
「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」とありますので、月々の社会保険料額や、その他控除に該当する項目(例えば生命保険に加入している場合等)の金額を差し引いた金額に基づきます。
東京都で月収20万円で見た場合、月々の社会保険料額は、28,700円です。
参照記事⇒平成31年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
これらの計算から、確認する金額は171,300円となります。
なお、この源泉徴収税額表において、寡婦(夫)は扶養人数を1人分増やした表に基づいて源泉徴収額を確認しますので、今回の例の場合、扶養人数2人の欄を確認します。
(4) (2)及び(3)の場合において、扶養控除等申告書にその人が障害者(特別障害者を含みます。)、寡婦(特別の寡婦を含みます。)、寡夫又は勤労学生に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、〜中略〜それぞれ(2)及び(3)の扶養親族等の数とします。
結果、寡婦(夫)控除適用後の源泉徴収額は530円(控除適用前:2,140円)であることがわかりますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「お金のことはよくわからない」といった方や、「わざわざ申請するのが面倒」という方でも、思いの外簡単に申請ができて控除が受けられるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
例えば上記に挙げたシュミレーションにおいても、1年間4万円分の税金が戻ってくるとすれば、10年で40万円に、20年で80万円になります。
こうした金額を子供の学費に充当できるだけでも利用する価値のある仕組みだと言えますよね。
法的な婚姻の有無や養育費の考え方等、いくつか注意すべき点もありますが、この記事で要点を押さえて、ぜひ該当する方はしっかりと控除を受けて、より充実した生活を送っていきましょう。