106万円の壁2019~106万円を超えると15万円以上の負担増?条件と仕組みをFPが解説
パートタイマーではたらく人が気になる税金制度の基準に「106万円の壁」というものがあります。
「106万円の壁」とは、扶養を外れて社会保険へ加入することになるボーダーライン。
年収106万円を超える場合は、配偶者の扶養から外れて自分で社会保険料を納めることになり、年間の負担は15万円ほど増加します。
さらに収入が増えればそれだけ負担は増え、手取りは目減りします。
この記事を読んでいる方の中にも「手取りを減らさないために……」と働き方を調整している人がいるかも知れません。
しかし、106万円を超えて働くことで得られるメリットもあります。いったいどのようなメリットでしょう?気になりますよね。
そこで今回は「106万円の壁」について、あてはまる条件やメリットについて解説していきたいと思います。
目次
2016年に130万円の壁とは別に新しく106万円の壁が作られた
2016年10月、社会保険料を自分で負担するかどうか(社会保険へ加入できるかどうか)のボーダーラインとして既存の「130万円の壁」とは別に新しく「106万円の壁」が作られました。
それまでは「年収が130万円を超えた場合は社会保険料を自分で負担する(→「130万円の壁」)」という基準だったものが、一定の条件に当てはまる人を対象に106万円にまで引き下げられたのです。
この改正によって、たとえば120万円など、それまで130万円の壁を超えない範囲で目一杯働いていたパートタイマーは「今後は収入を106万円以下に収めるべきか?それとも、130万円を超えて大きく稼ぐべきか?損しないのはどっち?」という問題に直面することとなったのです。
106万円の壁が作られた背景
106万円の壁が作られた背景には、「将来、低所得高齢者が急増するのを食い止めよう」「そのために、パートタイマーの人もなるべく雇用保険に加入できるようにしよう」という政府の考えがあります。
そもそもわが国の年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建て構造となっていますが、国民年金と厚生年金の両方を受け取ることができるのは、定年がある会社員のみ。
定年のない自営業者には、国民年金のみが支給されます。
国民年金の支給額は40年間満額払ったとしても月額64,961円。この支給額は今後も下がり続けるでしょう。
一方で、今は雇用の流動化によってパートタイマーや非正規社員として働く人が増えており、彼らは厚生年金に加入することができません。一家の生計を支える世帯主が厚生年金に加入できていない、というケースも増えているのです。
厚生年金に加入できないパートタイマーや非正規社員が増加すれば、それだけ将来の低所得高齢者は増加します。
そのような事態への対策として、社会保険(厚生年金)加入基準が見直され、「130万円の壁」とは別に「106万円の壁」が設けられたというわけです。
106万円の壁を超えて扶養が外れてしまう5つの条件
年収が106万円を超えたからといって、ただちにすべての人が扶養を外れてしまうわけではありません。
年収106万円以上であること加え、これからお話しする5つの条件すべてを満たす必要があるのです。
条件1.週20時間以上勤務
それまでは週の所定労働時間が「30時間以上」であることが社会保険の加入条件でしたが、106万円の壁では「週20時間以上」に引き下げられました。
条件2.1年以上働く見込みがある
「1年以上継続して働く見込み」のあることが条件ですので、日雇いの仕事は含まれません。
条件3.学生以外
労働者が学生の場合は条件を満たしません。
条件4.従業員501人以上の規模の会社で働いている
原則従業員501人以上の規模ですが、500人以下の企業などについても国は適用拡大できるよう視野に入れています。国や地方公共団体の職場については、500人以下であっても適用されます。
条件5.月収8万8千円以上(残業代と交通費は含まない)
月収は所定労働時間で判断し、残業代や交通費は含みません。
たとえば所定労働時間どおりに勤務した場合月収7万円となる短時間労働者が、残業代2万円ついて月収9万円になったような場合。
所定労働時間で働いた場合の7万円が判断基準となりますので、社会保険加入基準を満たしません。
参照サイト⇒財務省 社会保障について(参考資料)
106万円の壁を超えることによって支払いが発生する「健康保険料」「厚生年金」って何なの?
106万円の壁を超えると、扶養から外れて本人の給与から社会保険料が天引きされます。
ここで焦点となる社会保険料とは「健康保険」と「厚生年金」の2種類。
それぞれどのような保険料か、簡単にご説明します。
1.健康保険 | 病気やケガの治療費の保障や、仕事を休んで給料をもらえない場合の手当金の給付がある。40歳になると介護保険にも加入する。保険料は原則として会社が半額負担する。 |
2.厚生年金 | 老後に受け取る年金。国民年金に上乗せされた2階部分。保険料は原則として会社が半額負担する。 |
106万円の壁を超えることにより具体的にどのくらい負担が増えるのか?
106万円の壁を超えることにより給与から天引きされる保険料額は、具体的にいくらくらいになるのでしょう?
月収88,000円の場合を見ていきましょう。
1.健康保険 | 4,356円
※標準報酬88,000円、東京都の場合(平成31年3月分〜) |
2.厚生年金 | 8,052円
※標準報酬88,000円の場合(平成29年9月分〜) |
1,2の合計(負担増分) | 12,408円/月 |
上記のとおり、年収106万円を超えて社会保険料の負担が生じると、負担がなかった場合と比較し1か月あたり12,408円の負担増です。年間で見ると148,896円の負担増です。
ちなみに、月収88,000から1万円増えた98,000円の場合は、年間15万円以上の負担増となります。
1.健康保険 | 4,851円
※標準報酬98,000円、東京都の場合(平成31年3月分〜) |
2.厚生年金 | 8,967円
※標準報酬98,000円の場合(平成29年9月分〜) |
1,2の合計(負担増分) | 13,818円/月 |
参照サイト⇒全国健康保険協会 平成31年度保険料額表(平成31年3月分)
参照サイト⇒日本年金機構 保険料額表(平成29年9月分~)
105万円の場合の手取り額
年収105万円の場合は社会保険料への加入義務はありません。
ただし、所得税と住民税がかかります。所得税と住民税の合計は毎月約1,900円。年間で22,800円です。
上記から、年収105万円の場合の手取り年収は「102万7,200円」です。
107万円の場合の手取り額
年収107万円で社会保険に加入した場合、年間の負担は税金もあわせて184,896円。
したがって、年収107万円の場合の手取り年収は「88万5,104円」です。
106万円の壁を超えた後、105万円と同じ手取りになるために必要な収入は?
年収105万円の場合と年収107万円の場合の手取りを比較すると、その差は142,096円。
もし106万円の壁を超える前と手取り額を同等にしようと思ったら、月収にして11,842円分を上乗せできるよう働く必要があります。
労働時間でみると時給1,000円の場合で月11.8時間。
週あたりの3時間ほど勤務時間を増やさなければならない計算になります。
106万円の壁を超えることによるメリット
手取りだけを比較すれば、たしかに106万円の壁を超えないよう働くほうが得です。
しかし、そもそも106万円の壁を超えることで手取りが減ったのは、社会保険に加入したからですよね。
そして社会保険に加入すること、つまり厚生年金保険料を納めることで、老後に受け取る老齢年金を増やすことができるというメリットがあります。
さらに、遺族年金や障害年金についても国民年金より手厚い補償を受けられます。
たとえば、国民年金から受け取る「遺族基礎年金」と、厚生年金から受け取る「遺族厚生年金」では、受給できる遺族の範囲が違います。
遺族基礎年金 | 子または子のある配偶者 |
遺族厚生年金 | 配偶者・子、父母、孫、祖父母 |
このように、遺族厚生年金は受給できる人の範囲が拡大します。
障害給付も同様で、国民年金の「障害基礎年金」より、厚生年金の「障害厚生年金」のほうがより給付が手厚いです。
たとえば、障害厚生年金の障害等級には1〜3級がありますが、3級より軽い程度の障害がのこった場合にも障害手当金という給付が受けられます。
障害基礎年金にはない手当です。
また、障害厚生年金の1級、2級に該当する人は、障害基礎年金も同時に支給されるのです。
このように、厚生年金は老齢年金以外の給付においても、受給できる人の範囲や受給額において、国民年金よりメリットが多いのです。
106万円を超えて働いた方がいい人の条件
・老後に自分が受け取る年金を増やしたい人
・ケガや病気で仕事を休んださいに手当金を受けたい人
106万円を超えて社会保険に加入することの1番のメリットは、給付や手当金が手厚くなるということ。
夫(配偶者)の扶養内でも老後に年金(老齢基礎年金)を受け取ることができますが、自分で厚生年金へ加入していれば老齢厚生年金が上乗せされます。
しかも、年金料は会社が半分負担してくれます。
106万円以内で働いた方がいい人の条件
・月々の手取りを減らしたくない人
・所得税の控除を受けたい人(103万円以内)
・配偶者控除を受けたい人(103万円以内)
本記事では「106万円の壁」についてご説明していますが、税制に関する知識として「103万円の壁」というものあります。
103万円の壁とは、所得税を自分で納めるかどうかのボーダーライン。
年収103万円以下で働くと、所得税がかからないだけでなく、夫(配偶者)の配偶者控除を受けることがで、夫の給与から引かれる税金も安くなるのです。
130万円の壁を超えて扶養が外れる2つの条件
「106万円の壁」が作られるより以前から存在する「130万円の壁」についても条件を確認しておきましょう。
記事前半で少しふれた内容ですが、130万円の壁も106万円の壁も、どちらも社会保険に加入するかどうかのボーダーライン。
1点注意ですが「130万円の壁がなくなって106万円の壁ができた」のではありません。130万円の壁も106万円の壁も存在していて、「130万円の壁を超えて扶養を外れる人」の中から、5つの基準にあてはまる人が「106万円の壁」に該当するというしくみです。
「◯◯の壁」という言葉が多く、混同しやすいところですのでご注意くださいね。
さて、130万円の壁を超えて扶養から外れる条件とは、下記の2つです。
条件1.年収130万円以上
「年収130万円以上」とありますが、正確には月収ベースで考え、月収108,334円以上ある場合はこの条件を満たすとみなされます。
「みなされます」とはどういうことかと言いますと、年収130万円以下でも扶養を外れることがあるということ。
たとえば、専業主婦だった人が8月からパートの仕事を始め、月収13万円を超えた場合。12月までの年収で見ると13万円×5か月=年収65万円ですが、「年収130万円に達するペース」とみなされ扶養をはずれるのです。
このように実際の年収ではなく、その時点での月収が「年収130万円に達するペースかどうか?」が判断材料になる点がポイントです。
条件2.週30時間以上勤務
2つ目は労働時間です。
週の所定労働時間が30時間以上(例:週5日勤務の場合、1日6時間以上)ある場合、条件を満たします。
税金負担が大きくなる103万円、150万円の壁とは?
「103万円の壁」「150万円の壁」は、どちらも税金の壁です。
103万円を超えると所得税控除がなくなり(103万円の壁)、150万円を超えると配偶者特別控除の控除額がじょじょに減っていく(150万円の壁)、というもの。
150万円の壁について、かつては103万円がボーダーラインでしたが、女性の社会進出を促進することを目的に2017年度に改正され、150万円となりました。
106万円の壁に関するQ&A
106万円の壁に関するよくある質問に回答していきたいと思います。
106万円の中に賞与は含まれる?
いいえ。
106万円の中には、賞与や交通費、残業代は含まれません。
106万円の中に有給休暇で取得した収入も含まれる?
はい。
有給休暇で取得した収入も106万円に含まれます。
まとめ
社会保険加入のボーダーライン、106万円の壁。
「手取りを減らしたくない」と106万円以内で働こうという考え方もありますが、社会保険へ加入することで、老後に受け取る年金が増えたり、ケガや病気で仕事ができなくなった場合の手当てなどが手厚くなったりというメリットがあります。
短いスパンで損得を考えるのではなく、長期的な視点で考えてみましょう。
そのうえで、ご自分のライフスタイルや家族構成、人生設計に適した働き方をしていきたいですね。