医療保険控除の計算方法~上限金額と確定申告における年末調整の書き方をFPが解説

2024.07.16

医療保険(入院保険)

医療保険に加入すると、生命保険料控除を受けられるため、所得税や住民税の負担を減らすことが可能です。

しかし、生命保険料控除の申請方法や、具体的にどれだけの控除が受けられるのかあまり理解できていない方も多いのではないでしょうか?

「医療保険に加入するとどれだけの生命保険料控除が受けられるんだろう」

「そもそもどうやって申請するんだろう?確定申告?それとも年末調整?」

とお悩みの方のために、今回は医療保険に加入することで受けられる生命保険料控除についてまとめてみました。

この記事を読むことで生命保険料控除の仕組みが分かり、税金の負担額を減らせるかもしれませんので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。

生命保険料控除制度とは~対象の保険と対象外の種類

生命保険料控除とは、生命保険や医療保険に加入していた場合、一定額を所得から控除してくれる制度です。

控除を受けると、課税の対象となる所得が低くなるため、所得税や住民税の額が少なくなります。

つまり、控除の額が多いほど、税金の額が少なくなるのです。

所得控除が多いと所得税や住民税が少なくなる

所得税や住民税は、その人の1年間の収入に所定の税率がかけられて算出されます。

しかし、収入全てが税金の計算対象になるわけでなく、収入から一定額は、その収入を得るための必要経費であったとみなされて、差し引かれます。

この差し引かれた後の額を課税所得といいます。

例えば、会社員の場合は以下の計算式で求められます。

課税所得=(年収−給与所得控除)−所得控除

生命保険料控除は、上記の計算式の所得控除にあたります。

所得控除には、生命保険料控除以外にも、以下の種類があります。

・社会保険料控除:健康保険料や国民年金、厚生年金に支払った金額

・配偶者控除:一定の収入以下の配偶者がいる場合に受けられる控除

・扶養控除:一定の年齢以上の扶養家族がいる場合の控除

・地震保険料控除:地震保険に加入した場合の控除

その他の種類についてはこちらのサイトを確認してみるとよいでしょう。

以下の章では、生命保険料控除の仕組みについて説明していきますね。

生命保険料控除を受けるためには確定申告や年末調整での申請が必要

生命保険料控除を受けるためには、自営業の場合は確定申告、会社員や公務員は年末調整で、申請する必要があります。

それぞれの記入する書類や申請先などは以下の通りです。

自営業・フリーランス 会社員・公務員
申請方法 確定申告 年末調整
申請期間 翌年2月16日〜3月15日 当年の11月頃

※勤務先によって異なります

記入書類 確定申告書 給与所得者の保険料控除申告書
申請先 税務署 勤務先

また、申請の際には、保険会社から送られてくる、「控除証明書」を添付しなければいけません。

控除証明書は、手紙やハガキのような形をしているため、間違って捨ててしまわないようにしましょう。

生命保険料控除には新制度と旧制度がある

生命保険料控除には、新制度と旧制度があります。

新制度と旧制度では、生命保険料控除の種類と生命保険料控除の額が異なりますので、注意しましょう。

適用される生命保険料控除が、新制度なのか旧制度なのかは、加入時期によって異なります。

●新制度:2012年1月1日以降に加入した保険契約
●旧制度:2011年12月31日より前に加入した保険契約

以下の章での、生命保険料控除の区分や額について説明についても、新制度と旧制度に分けて説明していますので、それぞれ確認してみてください。

生命保険料控除の区分

生命保険料控除は、加入している保険の種類によって、適用される控除の種類が異なります。

新制度の区分は3分野

新制度の場合、生命保険料控除は、以下の3種類です。

●一般生命保険料控除:死亡時や生存時に保険金を受け取れる生命保険

●介護医療保険料控除:医療保険やがん保険、介護保険など

●個人年金保険料控除:個人年金保険(一定の条件を満たす必要がある)

つまり新制度の場合、医療保険の保険料は、介護医療保険料控除の対象となります。

旧制度の区分は2分野

旧制度は以下の2つの分野に分かれています。

●一般生命保険料控除:死亡・生存保険、医療保険、がん保険、介護保険など

●個人年金保険料控除:個人年金保険(一定の条件を満たす必要がある)

個人年金保険以外は、ほぼ全て一般です。

このため、旧制度での医療保険は、一般生命保険料控除の対象です。

生命保険料控除で控除される額

生命保険料控除を算出するときは、これから紹介する計算式をもとに、区分ごとの保険料を合計した額に応じて控除額が決まる仕組みです。

また、新制度と旧制度で計算式が異なるだけでなく、所得税と住民税によっても控除額が異なりますので注意しましょう。

まず、各分野と税金ごとの最大控除額は、以下の通りです。

新制度(3分野) 旧制度(2分野)
所得税 12万円

(1分野につき最大4万円まで)

10万円

(1分野につき最大5万円まで)

住民税 7万円

(1分野につき最大2.8万円まで)

7万円

(1分野につき最大3.5万円まで)

この表を見ると、所得税は新制度と旧制度で控除できる最大額や分野ごとの内訳が異なっていますね。

一方で住民税は、控除の合計額は同じですが、分野ごとの上限額が違います。

また、住民税の新制度の控除合計額は、2.8万円×3分野の8.4万円ではなく、旧制度と同じ7万円ですので、注意しましょう。

合計額を確認したところで、以下の章では、それぞれの具体的な計算式を紹介していきますね。

所得税の生命保険料控除額

所得税を計算するときの生命保険料控除額は、控除額の詳しい計算式は以下の通りです。

◯新制度

払込保険料総額(年間) 控除額の計算方法
〜20,000円以下 払込保険料等の全額
20,000円超〜40,000円以下 払込保険料等×1/2+10,000円
40,000円超〜80,000円以下 払込保険料等×1/4+20,000円
80,000円超〜 一律 40,000円

◯旧制度

払込保険料総額(年間) 控除額の計算方法
〜25,000円以下 払込保険料等の全額
25,000円超〜50,000円以下 払込保険料等×1/2+12,500円
50,000円超〜100,000円以下 払込保険料等×1/4+50,000円
100,000円超〜 一律 50,000円

所得税においては、1分野の保険料の払い込みが、新制度で8万円、旧制度で10万円を超えると、控除額が上限に達します。

住民税の生命保険料控除額

住民税の場合は計算する際は以下の計算式を元に算出されます。

◯新制度

払込保険料総額(年間) 控除額の計算方法
〜12,000円以下 払込保険料等の全額
12,000円超〜32,000円以下 払込保険料等×1/2+6,000円
32,000円超〜56,000円以下 払込保険料等×1/4+14,000円
56,000円超〜 一律 28,000円

◯旧制度

払込保険料総額(年間) 控除額の計算方法
〜15,000円以下 払込保険料等の全額
15,000円超〜40,000円以下 払込保険料等×1/2+7,500円
40,000円超〜70,000円以下 払込保険料等×1/4+17,500円
70,000円超〜 一律 35,000円

住民税の場合は、1分野の保険料の払い込みが、新制度で5.6万円、旧制度で7万円を超えると、控除額が上限に達します。

所得税よりも払い込める保険料や、控除できる金額の上限が少ないのが特徴ですね。

医療保険における生命保険料控除の注意点

医療保険に加入している場合は、その契約が新制度か旧制度かで事情が大きく異なりますので、注意しましょう。

たとえば、新制度の生命保険料控除が適用される医療保険に加入していると、他の生命保険(死亡保険)とは合算されません。

しかし、旧制度が適用される医療保険の場合は、他の生命保険と合算されて控除額が計算されます。

このため、すでに別の生命保険で、年間の保険料が上限に達していると、医療保険で追加の控除を受けることができないため、気をつけてくださいね。

生命保険料控除の対象外となる保険

生命保険料控除は、以下のような契約は対象外です。

●保険金等の受取人が契約者本人もしくは配偶者や親族以外の場合

●保険期間が5年未満の貯蓄保険や共済

●外国生命保険会社等又は外国損害保険会社等と国外において締結したもの並びに信用保険契約、傷害保険契約、財形貯蓄契約、財形住宅貯蓄契約、財形年金貯蓄契約

出典:国税庁

例えば、保険金の受取人を離婚した妻にしていると、生命保険料控除の対象外となるため、注意しましょう。

ここまで、生命保険料控除の仕組みを解説してきました。

しかし、この表を見ただけでは、なかなかイメージが湧きづらいのではないでしょうか。

そこで、このあとの章で、実際の所得税や住民税を計算するときのシミュレーションも記載していますので、ぜひ確認してみてください。

妻名義の医療保険も控除の対象になる?

たとえば、妻が契約者の医療保険に加入しているけれども、保険料は妻ではなく夫が支払っている場合は、夫の生命保険料控除の対象になります。

ただし、保険料が引き落とされている口座が夫名義のものであることが条件です。

妻名義の医療保険で生命保険料控除を受ける方法は、確定申告や年末調整で、妻名義の医療保険の控除明細書を提出し、所定の書類を記入するのみ。

このため、特別な手続きは必要ありません。

医療保険の受取人が誰か分からない時の確認方法

会社員が年末調整を行う場合に記載する「生命保険料控除申告書」には保険契約の受取人を記載する項目があります。

受取人は「控除証明書」には記載されていないのですが、分からない場合は以下の方法で確認可能です。

●保険証券を確認する

●保険会社に問い合わせる(契約者本人でないと教えてもらえない可能性もある)

受取人の記載が必要な理由は、生命保険料控除の条件が「保険金等の受取人の全てをその保険料の払込みをする者又はその配偶者その他の親族」としなければならない決まりがあるからです。

※引用:国税庁

このため受取人が分からない場合は事前に確認し、申告書に必ず記載するようにしましょう。

医療保険控除の計算方法~上限は?所得税や住民税はいくらお得かシュミレーション

ここで、医療保険に加入するとどれくらいの所得税や住民税がいくらくらいお得になるのか計算してみたいと思います。

例えば、以下のケースで確認してみましょう

・年収:400万円
・給与所得控除後の金額:266万円
・課税所得:195万円以下
・加入年月日:2013年2月
・支払い保険料(年間):72,000円(毎月6,000円)

加入年月日が2012年1月以降ですので、新制度が適用されますね。

それでは、所得税と住民税の額をそれぞれ計算していきましょう。

所得税の場合

まず生命保険料控除額を計算します。

新制度が適用される医療保険で、保険料が40,000円超〜80,000円までの場合の計算式は、

「払込保険料等×1/4+20,000円」です。

このため、生命保険料控除の額は、

72,000×1/4+20,000円=38,000円

となります。

課税所得が195万円以下の場合、所得税の税率は5%のため、

38,000円×5%=1,900円・・・①

この額が実際に節税できた額です。

住民税を計算

住民税の新制度の場合は、保険料が70,000円を超えているため、控除額は、一律28,000円です。

住民税の税率は10%のため、

28,000円×10%=2,800円・・・②

が節税できたことになります。

所得税と住民税のそれぞれの節税額を合計する

所得税で節税できた額①と住民税で節税できた額②を合計します。

①+②
=1,900円+2,800円
=4,700円

最終的にこの額が、医療保険に加入することにより得した、所得税と住民税の合計額です。

たった数千円と思われるかもしれませんが、10年間で47,000円、20年間で96,000円の節税だと考えると、とても大きな節税であると言えます。

もちろんこれはあくまで一例で、契約者本人の所得や、他の生命保険の加入状況によって、節税額は変わりますので、注意しましょう。

保険料控除申告書の書き方と記入例

年末調整の際に記載する保険料控除申告書は、自分がどのような生命保険にどれだけ加入しているのかを記載する必要があります。

申告書はこちらの国税庁のホームページからダウンロードできます。

なお、申告書を記入するときは、控除用紙を見ながらでないと、記入することは難しいので、必ず準備するようにしましょう。

項目ごとに確認していきましょう。

まずは、氏名や勤め先などの項目です。(下図の赤枠の部分です)

●給与の支払者の名称:勤務先の名前
●給与の支払者の法人番号:※勤務先が記入するので記入不要
●給与の支払者の住所:勤務先の住所
●あなたの氏名:漢字フルネーム(フリガナを忘れずに)
●あなたの住所または居所:翌年1月1日時点の住所など

次に生命保険料控除の記入欄ですが、下図の赤枠内に、保険料の区分ごとに記入していきます。

①:一般の生命保険料控除
②:介護医療保険料控除
③:個人年金保険料控除

このうち医療保険に関しては、新制度と旧制度で記入する枠が異なります。

●新制度が適用されるものは②
●旧制度が適用されるものは①

のそれぞれの枠に記入する必要があるため、注意しましょう。

また、各項目の記載方法については以下の通りです。

受取人以外の項目は、控除証明書に記載されているため、確認しながら記入していきましょう。

●保険会社等の名称:契約している保険会社の名称
●保険等の種類:保険商品名など
●保険期間:又は年金支払:
●保険等の契約者名:保険契約の名義人の名前
●保険金の受取人:受取人の名前と続柄(妻)など
●新旧の区分:どちらかに◯をする※介護医療の欄には記入する必要はありません。
●支払った金額:年間で支払った保険料の金額の合計※ただし配当金などの還付があった場合はその金額を除きます。

以上の項目を、記載したのちに、生命保険料控除の額を計算して記入します。

また、会社によっては、所定の用紙やシステムに記入、入力することにより、この申請書を記載しなくても良い場合があります。

詳細は、お勤め先の会社に確認してみてください。

まとめ

生命保険料控除は、少し仕組みも複雑ですので、理解するのに苦労するかもしれません。

また、確定申告や年末調整は、年に一度しかないため、一度理解しても次の年には忘れてしまうことあるでしょう。

しかし、仕組みをしっかり理解して、きちんと申請をすると、大きな節税効果を得られる可能性があります。

生命保険料控除についてわからないことがあれば、この記事を確認していただき少しずつ理解を深めていってくださいね。

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