自営業と年金~個人事業主の年金はいくら?種類と今から老後に備える方法
自営業者や個人事業主にとって、老後の年金額は会社員の場合よりも少なくなることはよく知られている事実です。
自営業者や個人事業主は、国民年金に加入し、基礎年金として年金を受け取ります。
国民年金とは、20歳以上の全ての国民が加入するもので、20歳から原則60歳まで毎月保険料を負担し、65歳から亡くなるまで年金を受け取ります。
会社員はそれにプラスして厚生年金に加入するため、老後にもらえる年金額も必然的に多くなり、自営業者や個人事業主の場合は年間780,100円であるのに対し、会社員は平均年間1,848,000円となり、大きな差が生じてしまいます。
ただし、自営業者や個人事業主も老後にゆとりを持てるような制度はあり、具体的には、国民年金基金や確定拠出年金、民間の個人年金保険、さらに、年金額自体を増やす付加年金制度があります。
さらに、このような制度を利用する前に、「社会保険料控除を利用する」などの押さえておきたい3つの節税ポイントもあります。
また、新年度新たに会社員から自営業者や個人事業主になり、国民年金保険料を払うという方もいるかと思いますが、国民年金保険料が未納だと、督促状が来たり、財産が差し押さえられたりすることもあります。
そのようなことにならないための保険料免除制度や納付猶予制度も、ここではご紹介しています。
逆に、自営業者や個人事業主から法人化する場合のメリットとデメリットもご紹介しています。
元々自営業者や個人事業主の方から、脱サラした方、これからそうしようとしている方まで、ぜひご覧ください。
目次
自営業者(個人事業主)が加入する国民年金の特徴
最初に、自営業者(個人事業主)の方が加入する国民年金の4つの特徴を解説していきます。
①20歳以上の全ての国民が加入するものである。
そもそも国民年金は、自営業者だけではなく会社員も含めた20歳以上の全ての国民が加入するものです。
もちろん20歳になった学生も加入しなければなりません。
②20歳から原則60歳まで毎月16,410円と負担していく。
この16,410円という金額は平成31年度の金額ですので、今後変わっていきます。
なお、国民年金には前納すると保険料が割引される制度があり、例えば、2年前納すると、割引額は15,760円となります。
③65歳から亡くなるまで毎月約65,000円を受け取れる。
平成31年4月分からの年金額は満額で780,100円であり、これを12か月で割ると、毎月約65,000円となります。
満額というのは、20歳から60歳になるまでの40年間保険料を納めたときの金額です。
④国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度がある。
国民年金には、保険料を納めるのが厳しいときに免除制度や納付猶予制度を利用できます。
例えば、免除制度だと、本人や世帯主、配偶者の前年の所得が一定額以下の場合には、本人が申請することによってそれが承認されると、免除になります。
免除にも、全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除の4つがあり、どれになるかは審査次第です。
また、大学生がよく利用する制度として「学生納付特例制度」があります。
参考サイト⇒厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」、日本年金機構「国民年金保険料」、日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法」、日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
自営業者(個人事業主)の年金は少ない?老後にもらえる年金をシュミレーション
次に、自営業者(個人事業主)の方が老後にもらえる年金を会社員の方の場合と比較してみましょう。
・自営業者(個人事業主)の場合→基礎年金
国民年金保険料を20歳から60歳になるまでの40年間納めたとすると、満額で年間780,100円もらえます。
それを65歳から85歳になるまでの20年間もらうとすると、合計で780,100円×20年間=15,602,000円となります。
・会社員の場合→基礎年金+厚生年金
厚生労働省のホームページによると、会社員の方の平均の年金額は月約154,000円となります。
それを65歳から85歳までの20年間もらうとすると、合計で154,000円×12か月×20年間=39,960,000円となります。
自営業者(個人事業主)と会社員の65歳から85歳になるまでの20年間の年金支給額を見ると、会社員の方が24,358,000円も多くもらえることが分かります。
自営業者(個人事業主)の年金支給額は会社員の方よりもかなり少なくなることが分かります。
参考サイト⇒厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」
自営業者(個人事業主)が老後の資金不足を起こさないために今からできる4つの方法
次に、自営業者(個人事業主)が老後の資金不足を起こさないために今からできることを4つご紹介します。
自営業でも加入できる年金保険
まず、自営業でも加入できる年金保険を3つご紹介します。
それは、「国民年金基金」と「確定拠出年金」と「個人年金保険」です。
概要 | 加入条件 | 給付 | メリット | |
国民年金基金 | 自営業者などの国民年金第1号被保険者が加入できる国民年金法の規定に基づく公的な年金制度である。 | 20歳以上60歳未満の自営業者とその家族、自由業、学生などの国民年金第1号被保険者が加入できる。
ただし、国民年金保険料を免除されている方は加入できない。 |
老齢年金と遺族一時金がある。
老齢年金については、口数で年金額が決まり、給付の型(終身年金や確定年金など)は自分で決められる。 |
掛金は全額所得控除を受けられるので、所得税と住民税の軽減につながる。 |
確定拠出年金 | 加入者が毎月掛金を拠出し、自分で運用し、その結果で将来受け取れる年金額が決まる仕組み。
個人型と企業型があり、自営業者の方が利用できるのは、個人型確定拠出年金であり、それをiDecoという。 |
iDecoに関しては、自営業者に限らず、公務員や会社員、専業主婦も加入できるようになった。
ただし、国民年金保険料を免除されている方はiDecoを利用できない。 |
老齢給付金と障害給付金と死亡一時金の3つの給付金がある。
老齢給付金は、原則60歳から支給される。 |
掛金の全額が所得控除の対象となる。
さらに、通常の金融商品には20.315%の源泉分離課税がされるが、確定拠出年金の運用益は非課税となる。 |
個人年金保険 | 民間の保険会社が販売している老後の備えのための年金保険である。 | 契約年齢は保険会社により異なる。
自営業者、会社員等関係なく誰でも申し込める。 医師の審査等がいらない商品が多いため、健康状態に不安のある方でも加入しやすい。 |
保険会社によって支給開始年齢をいつにできるかは異なる。
確定年金と終身年金と選べるところが多い。 支給開始時に、年金形式で受け取るか、一時金で受け取るか決められるところが多い。 |
生命保険料控除の対象となる。
保険商品によっては、受取率が105.0%を超えるものもある。 |
参考サイト⇒国民年金基金「制度について知る」、りそな銀行「わかりやすく解説!はじめての確定拠出年金」
年金を増やす!?付加年金制度
そもそもの年金自体を増やす制度もあり、それを「付加年金制度」といいます。
これは自営業者などの国民年金第1号被保険者が利用できるもので、月々16,410円(平成31年度の場合)の保険料に400円をプラスするという形です。
そうすることによって、例えば、20歳から60歳までの40年間、この付加保険料を納めると、200円×12か月×40年=96,000円を、通常の年金額にプラスして受け取れることができます。
つまり、満額780,100円(平成31年度4月から)+96,000円=876,100円となり、月々に直すと、約73,000円となります。
参考サイト⇒日本年金機構「付加保険料の納付のご案内」
自営業の夫を持つ妻はいくら年金がもらえる?
次に、夫が自営業者だった場合、妻はいくら年金がもらえるか、解説していきます。
妻が(1)会社員(2)自営業者(3)専業主婦の場合に、65歳から85歳になるまでの20年間でいくら年金がもらえるか、説明していきます。
妻が、
(1)会社員の場合
妻は妻で会社の厚生年金に加入するので、月々約154,000円(平均)がもらえ、「154,000円×12か月×20年間=36,960,000円」となります。
(2)自営業者の場合
妻は国民年金のみですので、月々約65,000円(平成31年度)がもらえ、「780,100円(満額の場合)×20年間=15,602,000円」となります。
(3)専業主婦の場合
夫が国民年金なので、会社勤めで厚生年金のような「扶養」という概念がそもそもありません。
ですので、妻も国民年金第1号被保険者となり、毎月保険料を負担しなければなりません。
自営業者の場合と同じく、月々約65,000円(平成31年度)がもらえ、「780,100円(満額の場合)×20年間=15,602,000円」となります。
つまり、夫が自営業者であろうと、妻が専業主婦である以外は、夫の年金制度に左右されないということです。
制度を知って無駄をなくそう~自営業者(個人事業主)ができる節税ポイント3つ~
次に、自営業者(個人事業主)ができる節税のポイントを3つご紹介します。
自営業者(個人事業主)は前述したように、年金の支給額が会社員と比べて少ないので、なるべく節税して家計への負担を減らしたいものです。
①社会保険料控除を利用する
社会保険料控除とは、健康保険や国民年金、厚生年金などの社会保険料を支払った場合に、所得控除を受けられるというものです。
控除できる金額は、社会保険料の支払額の全額です。
②小規模企業共済等掛金控除を利用する。
小規模企業共済という個人事業主などのための退職金制度がありますが、その掛金を全額所得控除でき、そのことを小規模企業共済等掛金控除といいます。
③法人化する
法人化とは、個人事業者が会社を設立して事業形態を個人から法人にすることをいいます。
法人にすると税金の面で個人の場合と違いが出てきます。
個人の場合だと、売上に対して所得税が課せられますが、一方、法人の場合だと、所得に対して法人税が課せられます。
ここで所得税の税率と法人税の税率を比較すると、その違いが見られます。
・所得税の税率
課税される所得税額 | 税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
・法人税の税率
中小法人で所得が年8,000,000円相当額以下 | 15.0% |
中小法人で所得が年8,000,000円相当額超 | 23.2% |
所得税に関しては累進課税ですので、課税される所得税額が高くなるにつれて、税率も高くなります。
一方、法人税に関しては、税率がほぼ一律です。
つまり、法人化にした方が、事業規模などを拡大する場合には、税負担が個人よりも軽くなるということです。
さらに、自分の給与が給与所得控除の対象となりますので、その点でも法人化は節税できると言えるでしょう。
参考サイト⇒国税庁「社会保険料控除」、国税庁「小規模企業共済等掛金控除」、国税庁「所得税の税率」、国税庁「法人税の税率」
年金の受給額が一定を超えると確定申告が必要です
年金の受給額が一定を超えると確定申告が必要になります。
年金所得者には「確定申告不要制度」というものがあり、国税庁のホームページには、以下のように記載されています。
公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ、公的年金等に係る雑所得以外の各種の所得金額が20万円以下である場合には、確定申告をする必要はありません。
引用_国税庁「高齢者と税(年金と税)」;
つまり、公的年金等の収入が4,000,000円を超え、かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額(給与所得や、株式などの配当所得、生命保険の満期返戻金などの一時所得など)が200,000円を超えた場合には、確定申告が必要になります。
ですので、確定申告の時期になったら、申告するようにしましょう。
参考サイト⇒国税庁「高齢者と税(年金と税)」、国税庁「公的年金等を受給されている方へ」
自営業者(個人事業主)が国民年金に加入するための手続き
次に、自営業者(個人事業主)が国民年金に加入するための手続きについて、解説していきます。
会社員から自営業者(個人事業主)になる人も多いと思います。
これまでは年金に限らず、社会保険関係は会社側でしてくれていたこともあり、いざ自営業者(個人事業主)になったら、どうすればいいのか分からないという方は多いのではないでしょうか。
手続きは、会社退職日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村役場で手続きをします。
その際に、基礎年金番号を確認されるので、年金手帳を持っていくようにしましょう。
年金手帳をなくしてしまった方は、再発行の手続きもしましょう。
国民年金保険を払えないとどうなる?自営業者(個人事業主)が注意するべきこと
次に、国民年金保険料を払う自営業者(個人事業主)が注意するべきことについて、解説していきます。
会社員の場合は、毎月の給与から厚生年金保険料等が天引きされるため、保険料が払えないということはそもそも起こりづらいと思いますが、国民年金保険料を払えない、滞納する、といったことは多くあります。
保険料を滞納していると、督促状が来たり、滞納料金が課されたり、財産が差し押さえられることもあります。
未納の場合、つまり何も手続きをしないと、受給資格期間への算入はされず、年金額へも反映されません。
収入が減少して、保険料を払うのが厳しくなったら、最初の方で触れた「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」を利用しましょう。
①国民年金保険料免除制度
本人や世帯主、配偶者の前年所得が一定額以下の場合などに、本人の申請することによって、保険料の納付が免除されます。
免除には、全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除の4つがあります。
全額免除の場合は、受給資格期間へ算入され、年金額にも反映されます。
②保険料納付猶予制度
20歳から50歳未満の方で、本人・配偶者の前年の所得が一定額以下の場合には、本人の申請により、納付が猶予されます。
ただし、猶予の場合は、受給資格期間への算入はされますが、年金額には反映されません。
将来の年金受給額を満額に近づけたい方は、免除や納付猶予になった保険料を後から納めることで、その足りない部分を埋めることができます。
参考サイト⇒日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
厚生年金をもらうために法人化するメリット・デメリット
最後に、厚生年金をもらうために法人化するメリットとデメリットをご紹介します。
自営業者(個人事業主)の国民年金の受給額は厚生年金よりも少ないことはもうお分かりだと思います。
法人化することでどんなメリットとデメリットが生まれるのでしょう。
メリット
①一定以上の所得があれば、税負担が軽くなる。
前述しましたが、所得税と法人税の税率の違いによって、一定以上の所得がある場合には、税負担が軽くなります。
②自分の給与が給与所得控除の対象となる。
こちらも前述しましたが、自分の給与が給与所得控除の対象となるため、節税が期待できます。
例えば、給与等の収入金額が年間1,800,000円以下場合だと、控除額は収入金額の40%となります。
ただし、650,000円に満たない場合は一律650,000円となります。
デメリット
①所得が一定以下だと、税負担は重くなる。
先ほどの逆で、所得が一定以下になってしまうと、逆に個人でやっていたときよりも税負担は重くなります。
②赤字でも法人住民税の均等割負担が生じる。
法人住民税は、「法人税割」と「均等割」から成り、均等割については、自治体ごとに異なります。
例えば、東京都の場合、「特別区内のみに事務所等を有する法人」については、資本金等が10,000,000円以下で、従業員が50人以下の場合でも、最低年50,000円は納めなければなりません。
もし法人化した会社が赤字になった場合、この50,000円でも痛い出費となる可能性はあります。
参考サイト⇒国税庁「給与所得控除」、東京都主税局「均等割額の計算に関する明細書」
まとめ
以上、自営業者や個人事業主の年金事情についてでした。
自営業者や個人事業主と会社員の老後にもらえる年金に大きな差があることがお分かりいただけたかと思います。
ただし、落ち込む必要はなく、国民年金基金や確定拠出年金、付加年金制度などによって、老後への金銭的な不安を取り除けることもお分かりいただけたかと思います。
節税もそうですが、自営業者や個人事業主の方は、会社に属していないため、何をするにも自分で行動を起こさなければなりません。
ぜひこれを機会に様々な制度を知り、ぜひ活用してみましょう。
以上となります。