介護タクシーの料金や介護保険適用対象者と3つの選び方をFPが解説
介護が必要な人の足として期待される介護タクシーですが、実は公的な介護保険制度にこのままの名称のものはありません。
介護保険と介護タクシーと呼ばれるものとの関係や適用条件を把握し、利用する業者を選ぶポイントをおさえておきましょう。
目次
介護タクシーとは
介護タクシーという言葉は、公的介護保険制度の中にはありません。
介護保険サービスのうち、車での外出に関係するものとしては「通院等乗降介助」というものがあります。
これは、「訪問介護の指定を受けた業者の訪問介護員が、通院などの外出時に、その業者の運転する車への乗り降りやその前後の移動、用事を介助する」という内容のものです。
この介護保険サービスの中の通院等乗降介助において使われる車が、狭い意味での介護タクシーです。
これとは別に、介護保険とは関係なく、外出が不自由な人に何らかのサポートをしてくれるタクシー業者もあり、この場合にタクシー業者が介護タクシーという名称を使っていることもあります。
介護保険が適用される場合も適用されない場合も、介護タクシーという名称を使うことに特に法律上の問題はありません。
そのため、介護タクシーという名前だけでは介護保険適用かどうか分からないのが現状です。
どのような場合に介護保険が適用となるのか、あらかじめ把握しておきましょう。
介護タクシーのサービス内容とサービスの流れ
介護保険で介護タクシーを使う場合、前提となるのは通院等乗降介助が訪問介護の一つであるという点です。
車での移動そのものが訪問介護の対象なのではなく、乗り降りやその前後の介助が訪問介護の対象となります。
ですから、介護保険適用の介護タクシーのサービス内容は、車での移動だけではなく前後の介護と一体となっているものです。
このように、介護保険の通院等乗降介助は訪問介護の一つなので、ケアマネジャーが作成するケアプランに盛り込まれていることが必要です。
介護保険適用の介護タクシーを利用したい場合は、ケアマネジャーにその意向を伝えましょう。
ケアマネジャーが適切にアセスメントしてケアプランに通院等乗降介助を組み込んではじめて、介護保険適用で介護タクシーを利用できます。
ケアプランの中で必要とされ利用が決まったら、指定を受けた業者と契約を結び、その中で決まった時間、決まった目的でサービスを受けます。
介護保険適用の介護タクシーは、タクシーとはいえ「流し」をつかまえるわけでも、思い立って予約を入れてすぐに使えるものでもないのです。
介護保険適用ではない介護タクシーでは、以上のような手続きは要りません。
直接業者に連絡します。
ただ、料金や車種、車いすなどの福祉用具は業者によってさまざまです。
利用する可能性があるなら、事前にいくつかの業者を比較検討しておきましょう。
介護タクシーが使える利用対象者
介護保険で訪問介護の通院等乗降介助を受けられるのは、要介護認定で要介護1以上とされた人です。
要支援では利用できません。
また、訪問介護は居宅サービスなので自宅に住んでいる人が対象です。
上記の条件も含め、一人では交通機関が利用できないことなど、ケアマネジャーが作成したケアプランに必要性が明記されている人が利用対象者となります。
介護タクシーが使える利用目的
訪問介護は居宅サービスなので、居宅で受けるのが原則です。
訪問介護の中の通院等乗降介助など外出を支援するサービスは、居宅からの外出、居宅への帰宅について例外的に認められるものであり、利用目的にも制約があります。
通院等乗降介助サービスが認められるのは、その利用者の日常・社会生活に必要なものとされています。
主なものは医療機関への通院です。
その他、日常生活に必要な品物を買うための外出、官公庁での何らかの手続きなどのための外出が認められます。
選挙での投票も、社会の一員として重要なものですから対象です。
また、デイサービスなど介護保険サービスの見学なども含まれます。
介護タクシーが使えない利用目的
介護タクシーの利用目的によっては、介護保険サービスの通院等乗降介助が使えないこともあります。
日常・社会生活に必要ないとされるものです。
日常生活に必要のない品物を買うための外出、自分の趣味嗜好を満たすための観劇や講演会などへの外出、身内以外の人を気遣うためのお見舞いなどは介護保険の通院等乗降介助の対象とはなりません。
冠婚葬祭についても対象外です。
同じお見舞いでも、近親者でその世話をする必要があるなどの事情があれば、通院等乗降介助に認められる可能性もありえます。
個別の事情について、介護保険を運営している市区町村によって判断が微妙に異なることもありますので、まずはケアマネジャーに相談してみましょう。
介護保険での通院等乗降介助が使えなくても、介護保険適用外のタクシー事業者独自のサービスである介護タクシーには利用目的による制限はなく、自由に利用できます。
介護タクシーの利用料金
介護タクシーを使う費用は、移動のための運賃、介護のための費用、車いすなど介護器具のレンタル費用を合わせた額となります。
介護保険の対象となるのは介護のための費用だけです。運賃やレンタル料は対象ではありません。
1.運賃~時間制運賃と距離制運賃
介護保険は厚生労働省に定めがありますが、タクシーの運賃は国土交通省に定めがあります。
介護保険適用ではない介護タクシーでは、通常のタクシーと同様に、国土交通省が地域ごとに設定した範囲内で料金を決めているところが多いようです。
介護保険が適用される介護タクシーには、国土交通省が定める介護運賃が認められます。
介護運賃は介護事業者や利用者の実情にあわせた、弾力的なものとなっています。
利用者の側からすると、事業者ごとの違いが大きいと感じることになるでしょう。
運賃の設定は、介護保険でない介護タクシーの運賃でも介護運賃でも、時間制と距離制が認められています。
時間制運賃は、利用者の指定した場所に到着したときから送り届けて輸送が終了するまで、運転手を実際に拘束した時間で決まるものです。
距離制運賃は利用者が乗った場所から降りた場所までの走行距離に応じて決まります。
距離制運賃を採用する業者はメーターを設置するのが原則です。
介護運賃では必ずしも義務ではありませんが、介護保険以外では義務となっています。
2.乗務員の介護にかかる費用
介護保険を利用する場合、これまで述べてきたように、乗務員の介護にかかる費用は、通院等乗降介助として介護保険から給付の対象です。
一方で、利用者に一定の自己負担があります。
後で詳しく述べますが、原則通りなら1回98円です。
介護保険適用ではない介護タクシーでの介護の料金は業者によります。
利用者の輸送に直接関係しないサービスなので国土交通省などにも特に定めはありません。
タクシー事業者が自由に決められるものです。
3.介護器具のレンタル費用
車いすやストレッチャーなどの利用料金がかかることがあります。
これもタクシー事業者の方で自由に料金を決めることができます。
介護タクシー業者によって、準備している介護器具の種類が異なることもあります。
もともと普通のタクシー業者だった事業者が介護タクシーも行うような場合に多いようです。
普通の車いすはあっても、リクライニング車椅子やストレッチャーはないというところもあります。
他の料金が安くても、必要な介護器具が無くてはそもそも利用できません。
どんな器具が使えるのか、そしてその料金はいくらなのか、介護器具に着目した事前リサーチも必要です。
介護保険の適用となる費用と自己負担額
先も述べたように、介護保険の適用となる費用は、ケアプランに盛り込まれた通院等乗降介助に該当する介護料金です。
介護保険の給付は正確には点数で表されます。
通院等乗降介助は1回あたり98点です。
通常は1点10円ですが、地価や賃金が高い都市部などで10円より高いこともあります。
1点10円の場合、通院等乗降介助として介護保険から給付される金額は980円です。
利用者はそのうち原則1割を負担するので、この場合は1回あたり98円の利用料金がかかることになります。
所得によっては介護保険の自己負担割合が2割や3割の人もいますが、その場合は利用料金も2割で98円×2=196円、3割で98円×3=294円です。
一般的な介護タクシーの料金目安と相場
先にも述べたように、介護タクシーの料金は介護保険の通院等乗降介助を利用するときに98円(1単位10円で自己負担1割の場合)というのがはっきり決まっているだけで、それ以外は介護タクシー業者によります。
業者には一般のタクシー会社や、NPO法人、タクシー会社以外の営利法人などがあり、それぞれの性質や理念、設備などで料金体系もまちまちです。
したがって、一概に料金の目安や相場を知ることは難しいものがあります。
運賃については、距離制の場合、初乗り2㎞まで300円と比較的安いところもありますが、600円程度や1,000円前後のところもありそれぞれです。
加算料金も300m前後で80円から90円が多いようですが、これもばらつきがあります。
時間制では30分で2,000円から2,500円という事業者が多いですが、それより上下するところもありますし、その後にどう料金が加算されるかも事業者次第です。
また、距離制と時間制のどちらの料金体系もある事業者もあれば、どちらかしかない事業者もあります。
福祉器具のレンタルも事業者によって異なるものです。
普通の車いすについては無料の事業者も多いのですが、何百円かの料金がかかるところもあります。
ストレッチャーについては1,000円単位のレンタル料がかかるケースが多いようです。リクライニング車椅子はその中間の料金とされているケースが多く見受けられます。
介護タクシーの料金シミュレーション
ある介護タクシー事業者で、介護保険適用の介護タクシーを利用した場合の料金を考えてみます。
料金は、運賃と介護料、福祉器具のレンタルです。
この事業者では、距離制運賃が初乗り3kmまで300円、加算料金が1kmごとに100円だとします。
時間制については30分ごとに1,500円です。車いす利用でレンタル料は無料のケースを考えます。
自宅から5㎞離れた病院に行くには、運賃500円+介護料98円(介護保険自己負担分)+0円(車いす無料)=598円が利用料金となります。
時間制運賃で1時間利用する場合では、運賃3,000円+介護料98円(介護保険自己負担分)+0円(車いす無料)=3,098円が利用料金となります。
介護タクシーの料金シミュレーション2
別の介護タクシー事業者では、距離制運賃のみで初乗り2kmまでは600円、500mごとに150円という運賃体系とします。
レンタル料1時間3,000円でストレッチャーも使ったとします。
自宅から5km圏内の病院へ行くには、運賃1,500円+介護料98円(介護保険自己負担分)+3,000円=4,598円となります。
介護タクシーの利用方法と流れ
先にも述べましたが、介護保険で介護タクシーを使えるのは、要介護認定で要介護1以上の認定を受けた人です。
まだ要介護認定を受けていない人は、市町村に届け出て、市町村職員などによる聞き取り調査や専門家による介護認定審査会を経て認定を受ける必要があります。
要介護1以上の認定を受けたら、居宅介護支援事務所のケアマネジャーに依頼するなどしてケアプランを立てます。
介護タクシーを利用するにためには、対象者としての資格を満たしているか、利用目的が適切か正しくアセスメントされた上で通院等乗降介助がケアプランに盛り込まれている必要があります。
そして介護タクシー事業者と契約をして利用を開始します。
介護保険で介護タクシーを使うのでなければ、介護タクシーを営んでいる業者に直接利用を申し込みます。
介護タクシーの選び方3つのポイント
介護保険を利用する場合、ケアマネジャーがタクシー業者をコーディネートしてくれることが多いです。
この場合、介護タクシー業者に一定の技量がある可能性は高いですが、念のため以下の3点についてチェックしておきましょう。
介護保険適用外で利用する場合はなおのこと注意が必要です。
信頼できる企業が運営しているか
「介護タクシー」をキーワードにインターネットを検索すると、介護タクシー業者として開業するためのノウハウを指南するサイトが多数表示されます。
最初から志や技術が高い業者も多いかもしれませんが、介護タクシー業者として開業しているだけでは信頼できるかどうか分かりません。
介護保険におけるケアマネジャーは、地域の介護関係の事業者について詳しく、依頼先のタクシー事業者がどのようなところなのか情報を持っている可能性が高いです。
気になるところは詳しく話を聞いておきましょう。
また、介護事業者であれば、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」を利用することで、事業者に関する情報が分かります。
このシステムは「事業所の概要」「事業所の詳細」「事業所の特色」「運営状況」などがまとめられているものです。
運営状況については「サービスの質の確保への取り組み」「従業員の研修等」「相談苦情等への対応」などの項目がレーダーチャートで評価されています。
このシステムは、介護事業所を検索して評価、比較するためのものなので、通院等乗降介助についてだけを知ることはできませんが、事業所の信頼性を推し量る材料になるでしょう。
介護タクシーを行っている事業所に絞り込みたい場合は、検索条件に「通院等乗降介助」と入力してみましょう。
保険適用でない介護タクシーを利用したい場合も、すでに担当ケアマネジャーがいる場合には、自分がケアプラン以外にどのような業者を利用しているのか把握してもらう意味でも、一言尋ねておいた方がいいでしょう。
ケアマネジャーが直接には知らない業者でも、地域での口コミを知っているかもしれません。
これまで全く介護保険とご縁がなく、一から介護保険適用外の介護タクシーを探す場合、先に挙げた厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」の通院等乗降介助を行う業者の中から、保険適用外のサービスも行っている業者を探すのも一つの手です。
料金体系が明確かつ適正であるか
料金体系は業者によりさまざまなので、利用者のニーズに合わせてそれに見合った料金を複数の業者で比較しててみましょう。
あまりに高額な事業所は適正とはいえません。
自分に合うと思った事業者を選択しても、いざ利用してみたら予定していた料金と違っているようでは困ります。
ケアプランの中で契約するときや、事前に予約するときに明確な説明をしてくれるところを選びましょう。
予定していた内容と違うサービスになるならどのように料金が変わるのか、料金体系の全体像をしっかり教えてくれるところが長く付き合う上で安心です。
運転手の経験やレベルが一定以上であるか
介護保険を利用する場合は、乗り降りやその前後の介護を伴います。
介護保険の通院等乗降介助は訪問介護の一つですから、健康状態などを知るための声掛けなども行いますし、車いすへの移乗など身体に触れる場面もあるものです。
介護について必要な資格を持った人が従事しているかがまず重要なこととなります。
さらに、単に資格を保有しているだけでなく、現場で必要な指導や研修を受けて実務経験が充実しているかどうかも大切です。
また、苦情を受けてそれを業務にフィードバックできていれば、きめ細やかな対応が期待できるでしょう。
先に述べた厚生労働省の介護サービス情報公表システムで研修や苦情相談についての体制などを確認しておくのも運転手の経験やレベルを知るのに役立ちます。
運転手とは言葉を交わして心身の介助を受けるので、相手の人柄によるところも大きいものがあります。
この点、地域の介護事業者に詳しいケアマネジャーから評判を聞けるだけ聞いておきましょう。数字で表せない血の通った情報も重要です。
介護保険適用でない介護タクシーでも、介護サービス情報公表システムに掲載されているならその情報を確認し、聞ける場合にはケアマネジャーから評判を聞いておいた方がよいでしょう。
また、介護タクシー業者自身のウェブサイトの情報も読み込みましょう。事業者がサイトで発信している情報から運営者や運転手の人柄についてわかることもあるかもしれません。
運転手が「利用者の腰痛などに配慮して振動を避けるように運転している」といった内容を書いているのを見ると、高い意識で仕事に取り組んでいることがうかがえるでしょう。
まとめ
介護タクシーには、公的介護保険が適用されるものとそうでないものがあります。
介護保険を適用して利用する場合には、要介護1以上であるなど利用者の資格を満たしていることが必要ですし、利用目的にも制限があります。
また、保険が適用となるのは介護費用だけです。
運賃や福祉器具のレンタル料金は介護タクシー業者によってそれぞれです。
介護を伴うサービスを利用するのですから、事業者の信頼性、料金体系の明確さ、運転手の経験やレベルに留意して納得のいく業者を選びましょう。