個人年金保険と税金~FPが教える損をしない受取方法やシュミレーションと計算方法
個人年金保険で受け取る年金には税金がかかりますが、税金額は受取人や受取方法によって変わります。
一般的には「契約者=受取人」とすることで、契約者以外(たとえば配偶者)を受取人にした場合よりも税金をおさえることができます。
本記事では、個人年金保険の受取方法や税金の計算方法について、具体的なシミュレーションをまじえながらご説明していきます。
目次
個人年金保険の受け取りには税金がかかる?
個人年金保険の受け取りには、受取人によって「所得税」または「贈与税」のいずれかがかかります。
受取人 | 税金の種類 |
契約者と同じ | 所得税 |
契約者と違う(配偶者など) | 贈与税(初年度のみ。2年目からは所得税) |
上表のとおり、個人年金保険の受取人が契約者と同じ場合には「所得税」が、契約者と違う場合には「贈与税」(初年度のみ。2年目以降は所得税)がかかるのです。
個人年金保険の契約者と受取人が同じの場合
受取人 | 契約者と同じ |
かかる税金の種類 | 所得税 |
所得税の税率 | 5%〜45% |
参照サイト⇒国税庁 No.2260 所得税の税率
個人年金保険の契約者と受取人が同じ場合、受け取った年金は所得の1つである「雑所得」に分類されます。
雑所得とは、他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得をいい、公的年金等、非営業用貸金の利子、著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税、講演料や放送謝金などが該当します。
引用元⇒国税庁
個人年金保険における雑所得の計算方法
雑所得の金額は、下記の式で求めることができます。
雑所得の金額=総収入金額−必要経費
参照サイト⇒国税庁 No.1500 雑所得
一見とてもシンプルな式ですが、「必要経費」の求め方がやや複雑ですので、こちらも確認しておきましょう。
必要経費=年金額×払込保険料の総額÷受け取る年金の総額
つまり、
雑所得の金額=総収入金額−(年金額×払込保険料の総額÷受け取る年金の総額)
で求められるということです。
具体的に計算してみるとより理解しやすいと思いますので、1つシミュレーションをおこないましょう。
たとえば、下記のような個人年金保険に加入していたケースを想定します。
- 月額保険料:1万円
- 保険の種類:10年確定年金
- 払込期間:30年
- 払込保険料総額:1万円×12箇月×30年=360万円
- 受け取る年金の総額:400万円
- 年金額:40万円
この場合の必要経費は、下記の式で求めます。
必要経費:40万円×360万円÷400万円=36万円
雑所得金額は「総収入金額−必要経費」で出せますので、数字をあてはめます。
雑所得金額:40万円−36万円=4万円
結論、4万円に対して所得税がかかるということです。
ただし、所得税には無条件で38万円の基礎控除がありますので、個人年金保険の年金以外他に収入がない場合、所得税はかかりません。
個人年金保険における所得税の計算方法
所得税の税率は、課税所得によって下記のように異なります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円下記 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円下記 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円下記 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円下記 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円下記 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円下記 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
参照サイト⇒国税庁 No.2260 所得税の税率
たとえば、課税所得が180万円の場合、納税額は9万円です。
【計算式】180万円×0.05=9万円
課税所得が195万円を超える場合は控除があります。
たとえば、課税所得が500万円の場合、納税額は572,500円です。
【計算式】500万円×0.2−42万7,500円=57万2,500円
このように、所得税は「課税所得×税率−控除額」の式で算出できます。
個人年金保険の契約者と受取人が違う場合
受取人 | 契約者と違う |
かかる税金の種類 | 贈与税 |
贈与税の税率 | 10%〜55% |
参照サイト⇒国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
個人年金保険の受取人が契約者と異なる場合、受取人は「契約者から贈与を受けた」とみなされます。
そして、受け取った年金に対しては所得税よりも税率の高い贈与税がかかります。
個人年金保険における贈与税の計算方法
贈与税は、贈与の合計から基礎控除額110万円を差し引いた金額に税率をかけて算出します。
贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。
続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。
次に、その残りの金額に税率を乗じて税額を計算します。
課税価格に応じた贈与税の税率は、下記表で確認します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円下記 | 10% | – |
300万円下記 | 15% | 10万円 |
400万円下記 | 20% | 25万円 |
600万円下記 | 30% | 65万円 |
1000万円下記 | 40% | 125万円 |
1500万円下記 | 45% | 175万円 |
3000万円下記 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
参照サイト⇒国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
たとえば、1年間に受けた財産の合計額が300万円だった場合、贈与税は19万円です。
【計算式】(300万円−基礎控除110万円)×0.1=19万円
1年間に受けた財産の合計額が500万円だった場合、贈与税は53万円です。
【計算式】(500万円−基礎控除110万円)×0.2−控除額25万円=53万円
このように、贈与税は「基礎控除後の課税価格×税率−控除額」の式で算出できます。
個人年金保険の受け取り方法によっても税金は変わる
保険の種類 | 一時金で受け取る場合 | 毎年受け取る場合 |
保証期間付終身年金 | 所得税(雑所得) | 所得税(雑所得) |
確定年金 | 所得税(一時所得) | 所得税(雑所得) |
個人年金保険の受取人が契約者と同じである場合、一時金として受け取るか毎年に分けて受け取るかで、かかってくる税金が変わります。
保証期間付終身年金
保証期間付終身年金の場合、保証期間の年金を一時金で受け取る場合も、毎年受け取る場合も、「雑所得」扱いとなり所得税がかかります。
確定年金
確定年金の場合、年金を一時金で受け取る場合は「一時所得」として、毎年受け取る場合は「雑所得」としてそれぞれ所得税がかかります。
個人年金保険における一時金にかかる税金
確定年金を一時金で受け取る場合、受け取った一時金は「一時所得」扱いとなります。
なお、一時所得の場合は、最高50万円までの特別控除額を差し引いて所得を計算します。
一時所得の金額は、次のように算式します。
総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
引用⇒国税庁
個人年金保険の税金シュミレーション
ここからは下記のモデルケースを用い、個人年金保険の税金シミュレーションをおこなっていきます。
契約者 | 35歳(男性) |
払込満了 | 60歳 |
保険料払込期間 | 25年 |
月額保険料 | 1万円 |
払い込んだ保険料の累計額 | 300万円 |
個人年金保険の税金シュミレーション【確定年金・契約者と受取人が同じ】
受取人 | 契約者と同じ |
個人年金保険の種類 | 確定年金(10年) |
年金を受け取る期間 | 1. 年ごとに受け取る(雑所得)
2. 一時金として受け取る(一時所得) |
年金年額 | 40万円×10年間 |
年金累計額 | 400万円 |
契約者と受取人が同じである場合、年ごとに受け取る場合は「雑所得」扱い、一時金として受け取る場合は「一時所得」扱いとなり、課税所得は下記のように変わってきます。
1.「雑所得」の場合: 40万円−(40万円×300万円÷400万円)=課税所得10万円
2.「一時所得」の場合:受取年金額400万円−払込保険料300万円−特別控除額50万円=課税所得50万円
他に所得が無ければ、上記課税所得から各種所得控除(基礎控除38万円は無条件で認められる)を差し引いた金額をもとに、所得税・住民税が計算されます。
各種所得控除を差し引いた結果が0になれば、所得税はかかりません。
個人年金保険の税金シュミレーション【確定年金・契約者と受取人が別】
受取人 | 例:配偶者 |
個人年金保険の種類 | 確定年金(10年) |
年金を受け取る期間 | 1. 年ごとに受け取る(初年度は贈与税の対象。2年目以降は所得税の対象)
2. 一時金として受け取る(贈与税の対象) |
年金年額 | 40万円×10年間 |
年金累計額 | 400万円 |
個人年金保険の契約者と受取人が別である場合、年ごとに受け取る場合でも一時金として受け取る場合でも贈与税の対象となります。
ただし、年ごとに受け取る場合に限り、2年目以降は「雑所得」扱いとなり、所得税の対象です。
贈与税の計算には「年金評価額」が必要となりますので、実際に計算するさいは保険会社へ確認しますが、ここでは仮に年金評価額を380万円としてシミュレーションしてみましょう。
贈与税の計算:(年金評価額380万円−基礎控除110万円)×税率15%−控除額10万円=30万5,000円
年ごとに受け取る場合も一時金として受け取る場合も、初年度に贈与税30万5,000円が差し引かれるということです。
契約者と受取人が同じだった場合と比較して、かなり税金が高くなることが分かります。
年ごとに受け取る場合、2年目以降はさらに所得税もかかってきます。
個人年金保険の税金シュミレーション【保証期間付終身年金・契約者と受取人が別】
受取人 | 契約者と同じ |
個人年金保険の種類 | 保証期間付終身年金 |
年金を受け取る期間 | 1. 年ごとに受け取る(雑所得)
2. 一時金として受け取る(雑所得) |
年金年額 | 40万円×(余命年数と保証期間年数のどちらか長いほう) |
保証期間付終身年金で契約者と受取人が別の場合、年ごとに受け取っても一時金として受け取っても扱いとしては「雑所得」扱いとなり、下記の式で計算できます。
雑所得の金額=総収入金額−(年金額×払込保険料の総額÷受け取る年金の総額)
仮に保証期間が10年だった場合の課税所得は、10万円です。
【計算式】40万円−(40万円×300万円÷400万円)=課税所得10万円
個人年金保険の税金シュミレーション【保証期間付終身年金・契約者と受取人が別】
受取人 | 例:配偶者 |
個人年金保険の種類 | 保証期間付終身年金 |
年金を受け取る期間 | 1. 年ごとに受け取る(初年度は贈与税の対象。2年目以降は所得税の対象)
2. 一時金として受け取る(贈与税の対象) |
年金年額 | 40万円×(余命年数と保証期間年数のどちらか長いほう) |
保証期間付終身年金・契約者と受取人が別である場合、年金の場合も一時金の場合も初年度は30万5,000円の贈与税がかかります。
贈与税の計算:(年金評価額380万円−基礎控除110万円)×税率15%−控除額10万円=30万5,000円
年金として受け取る場合、2年目以降は所得税もかかります。
税金で1番損をしない個人年金保険の受け取り方
個人年金保険の受取人や受取方法による税金の違いをシミュレーションしてきました。
税金で1番損をしない可能性の高い受け取り方は、受取人が契約者と同じであり、受取方法は年金受取りの場合です。
受取人 | 契約者と同じ |
受取方法 | 年ごとに年金として受け取る |
個人年金保険で確定申告が必要な人と不要な人
個人年金保険で受け取った年金が「雑所得」「一時所得」の場合で、一定額を超えた場合は確定申告が必要です。
この場合の「一定額」については下記の通りです。
給与所得がある人の場合 | 20万円を超えた場合 |
無職の人の場合 | 38万円を超えた場合 |
ちなみに個人年金保険で受け取った年金が基礎控除110万円を超える「贈与」にあたる場合は、確定申告とは別に「贈与税の申告」をおこないます。
個人年金保険は税金控除になる?
個人年金保険で支払った保険料は、生命保険料控除の1つである個人保険料控除の対象です。
ただし、下記の要件を満たすことが条件です。
(イ) 年金の受取人は、保険料若しくは掛金の払込みをする者、又はその配偶者となっている契約であること。
(ロ) 保険料等は、年金の支払を受けるまでに10年以上の期間にわたって、定期に支払う契約であること。
(ハ) 年金の支払は、年金受取人の年齢が原則として満60歳になってから支払うとされている10年以上の定期又は終身の年金であること。
個人年金保険は税金対策になる?
控除額 | |
所得税 | 最大40,000円 |
住民税 | 最大28,000円 |
個人年金保険の控除額は、所得税から最大40,000円、住民税から最大28,000円の合計68,000円です。
年間の払込保険料が80,000円を超えれば双方の条件を満たしますので、月額6,667円以上の保険料を払い込めば節税効果を最大にできるということです。
個人年金保険の受取人や被保険者が死亡した場合にも税金がかかる
個人年金保険の受取人=被保険者=契約者が死亡した場合、年金給付前であれば、払い込んだ保険料相当額(保険会社によって異なるが一般的に「死亡給付金」と呼ばれることが多い)が死亡給付受取人に対して返還され、契約そのものは終了となります。
返還された死亡給付金は相続税の課税対象です。
年金の受給が開始されていて、かつ期間に定めがある場合は(確定年金や保証期間付終身年金)、期間が満了するまでは年金の給付は続きます。
この際に受給する年金はやはり相続税の課税対象となります。
「受取人=被保険者=契約者」が死亡した場合 | |
年金給付前 | 死亡給付金が相続税の課税対象となる |
年金受給中 | 引き続き受給する年金(もしくは一時金)が相続税の課税対象となる |
まとめ
個人年金保険の受取人が本人の場合は所得税、本人以外の場合は贈与税の課税対象となります。
税率を比較すると所得税が5%〜45%であるのに対し、贈与税は10%〜55%と高額です。
また、本人以外が一時金ではなく年金として受け取る場合、翌年以降から所得税もかかってきます。
個人年金保険の受取人や受取方法を決める際は、損をすることがないよう、受け取る時にどのような税金がどれくらいかかるものかについても確認するようにしましょう。