国保と社保ってどう違う?どちらがお得?両者の違いから切り替え方までFPが徹底解説!
国民のほとんど皆さんがお持ちの保険証。
保険証があることで、病院に行った際の治療費が安くなったりと、様々な国の保障を受けることができる保険制度ですが、この保険制度は、国保(国民健康保険)と社保(社会保険)の2つに大別されます。
国保と社保の違いは何なのでしょうか。
どういう時にどちらに加入し、どちらがお得で、といった詳細を知らず、「会社がやってくれているからわからない」「家族に任せっきり」という方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では両者の違いやどういう時に切り替わるのか、どんな手続きが必要なのか等を解説していきます。
転職や独立のタイミング、また結婚でも健康保険の切り替えが必要になる場合もあるので、いざという時にどうすべきか参考にしてみてください。
それでは早速見ていきましょう。
目次
国保(国民健康保険)と社保(社会保険)の違いまとめ
まず、国保と社保の概要から見ていきます。
両者に共通しているのは、どちらも「健康保険」ということですが、それぞれ何がどう違うのでしょうか。
健康保険は職業によって色々な種類がある
そもそも、世界中のどの国でもほぼ全国民が公的な健康保険を受けられるというわけではありません。
日本では、「国民皆保険制度」という全国民が等しく医療を受けられるようにする制度が導入されており、それに基づいて健康保険が成り立っています。
あなたが仮に友人知人に聞いたとしても、保険証を持っていない方を探す方が大変だと思いますが、その背景はこの「国民皆保険制度」があるということですね。
国民皆保険制度の特徴として、厚生労働省が4点挙げています。
①国民全員を公的医療保険で保障。
②医療機関を自由に選べる。(フリーアクセス)
③安い医療費で高度な医療。
④社会保険方式を基本としつつ、皆保険を維持するため、公費を投入。
引用_我が国の医療保険について|厚生労働省
上記の④にありますように、この健康保険には一部公費(国のお金)が投入されていますが、裏を返すとそれ以外は私たち国民や、私たちを雇用している事業主が負担している費用で賄われていることとなります。
その負担割合の詳細については後述しますが、一口に健康保険と言っても、職業(業態、規模等)によって様々な種類があります。
まず、社保加入者の大部分が加入している組合に、「協会けんぽ(全国健康保険協会)」というものがあります。
これは、中小企業を中心とした事業主が加入できるよう設立された協会で、様々な業種の方々が混在する組合です。
参照記事⇒我が国の医療保険について|厚生労働省
一方で、例えば公務員の方々には「共済組合」という組合が用意されておりますし、いわゆる大企業にはその企業単体もしくは同業のグループで独自の「健康保険組合」というものが設けられています。
参照記事⇒我が国の医療保険について|厚生労働省
また、こうした健康保険組合に属さない方は、「市町村国保」という各自治体が管理する健康保険に加入しますが、これが「国保」です。
参照記事⇒我が国の医療保険について|厚生労働省
会社や組織に属していなければ国保、会社で働いていれば社保
前述の通り、多くの会社や組織が、健康保険組合を設立しているもしくは協会けんぽのような組合に加入しており、私たちはそれぞれの組合員(会社や組織)の「被保険者」として健康保険に加入することができます。
ですので、会社や組織に属していない例えば自営業やフリーランスの方に関しては、所属できる組合がないので、各自治体に手続きをして国保に加入することとなります。
(1つの組織に定まらない非正規労働者や無職の方も国保に加入するのが一般的です。)
会社で働いていれば社保、自営業やフリーランスその他であれば国保、という違いが生まれますね。
国保(国民健康保険)と社保(社会保険)の保険料と保障内容
それでは、国保と社保では、保険料や保障内容はどう違うのかを表で見てきましょう。
国保(国民健康保険) | 社保(社会保険) | |
保険料負担 | 全額自己負担
(費用は自治体により異なる) ※平成27年度全国平均 ⇒年額110,000円 |
半額自己負担
(残り半額は事業主が負担) ※保険料負担率は組合ごとにより 異なりますが、一般的に、自己負担額は 国保より安くなります。 |
医療費負担 | (共通)
・未就学児まで:2割 ・就学児〜70歳まで:3割 ・70〜75歳まで:原則2割(現役並み所得のある方は3割) ・75歳以上:原則1割(現役並み所得のある方は3割) |
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入院時食事療養費
(自己負担額) |
(共通)
・標準:1食につき360円 ・低所得者:1食につき210円 ※90日を超える入院の場合、1食につき160円 ・特に所得の低い低所得者(70歳以上):1食につき100円 |
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入院時生活療養費
(65歳〜) |
(共通)
・標準:1食につき460円(一部医療機関は420円)+居住費320円 ・低所得者:1食につき210円+居住費320円 ・特に所得の低い低所得者:1食につき130円+居住費320円 ・老齢福祉年金受給者:1食につき100円+居住費0円 ※難病等の患者の負担は食事療養標準負担と同額 |
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高額療養費
(月額自己負担額) |
(共通)
◯70歳未満の場合 ・年収約1,160万円〜:252,600円+(医療費ー842,000)×1% ・年収約770〜1,160万円:167,400円+(医療費ー558,000)×1% ・年収約330〜770万円:80,100円+(医療費ー267,000)×1% ・年収〜約330万円:57,600円 ・住民税非課税者:35,400円 ◯70歳以上の場合 ・現役並み所得者(入院):80,100円+(医療費ー267,000)×1% (外来の場合:44,400円) ・一般(入院):44,000円(外来の場合:12,000円) ・低所得者(入院):24,600円(外来の場合:8,000円) ・特に所得の低い低所得者(入院):15,000円(外来の場合:8,000円) |
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出産育児一時金 | 被保険者又はその被扶養者が出産した場合、原則42万円支給 | |
埋葬料 | 市町村により、1〜5万円支給 | 5万円支給 |
傷病手当金 | 原則なし | 被保険者が業務外の事由による療養のため労務不能となった場合、最大1年6ヶ月、標準報酬日額の3分の2を支給 |
出産手当金 | 原則なし | 被保険者本人の産休中(出産日以前42日から出産後56日まで)の間、1日につき標準報酬日額の3分の2を支給 |
参照記事⇒我が国の医療保険について|厚生労働省
保険料の自己負担は半額となり、さらに保障の幅もより広くなるので、国保よりも社保の方が手厚いと言えますね。
国保(国民健康保険)には「扶養」という考え方はない
社保に関しては、例えば専業主婦やパートタイマー(この場では、年収130万円未満の方を指します)、また子供を「扶養」として、加入者1人の保険を適用することができます。
参照記事⇒国保の扶養とは 国民健康保険の基礎知識|トムスネット
つまり、あなたが会社員として働いていて、専業主婦の妻と子供がいる場合でも、あなた1人の保険で家族全員健康保険の保障を受けられます。
ですので、例えば奥さんが保険料を払っていなくてもあなたの保険の扶養に入っていますので、例えば出産の際に、前述の表にある出産育児一時金の42万円を受けることもできるわけですね。
反面、国保にはこの「扶養」という考え方がありませんので、例えば奥さんが専業主婦でも、子供がいても、それぞれに国保の加入をしないと保障が受けられないのです。
上記例の場合では、奥さんの国保の加入がないと、あなたが国保に加入していても、出産育児一時金の42万円は受け取れないということですね。
国保(国民健康保険)と社保(社会保険)では保険料はどっちがお得?
国保も社保も、かかってくる保険料は加入者自身の年収(所得)によっても変わりますし、社保の場合は保険料率も組合ごとで若干異なってきますので、一概に白黒をつけることは難しいのが実情。
ですが、一般論として、特に扶養家族がいる場合はほぼ間違いなく、社保の方が保険料が安くなると言えるでしょう。
理由は前述の通り、社保には「扶養」という考え方があり、加入者1人の保険料で扶養家族全員分の保険を受けられるからです。
反面、国保は国民1人1人に対して加入しないと保障が得られませんので、扶養家族が多ければ多いほど負担は増すばかりです。
一例として、トムスネットという国の保障や手続きに関して社会保険労務士やハローワークの意見等を集約しているサイトの中に挙げられていた、東京都世田谷区在住の3人家族の社保と国保の保険料の違いを引用します。
例)東京都世田谷区在住。本人以外に扶養家族が2名いるケース。
本人(夫) 40歳 年収400万円 (月額報酬26万円)
妻 39歳 年収100万円 子 12歳 収入なし 会社員時代の保険料は年間281,576円(賞与分含む)、これを国民健康保険に切り替えると、年間397,396円となります。
引用_国保の扶養とは 国民健康保険の基礎知識|トムスネット
保障内容の手厚さも考慮して考えていきますと、上記一例を見てもおわかりの通り、社保の方が保険料も含めてお得と言えますね。
国保(国民健康保険)と社保(社会保険)を切り替える方法
それでは、実際に今加入の国保(もしくは社保)から社保(もしくは国保)へ切り替えるにはどのようにすればいいのでしょうか。
原則あなたもしくは家族の方が手続きすることが必要となりますので、是非参考にしてみてください。
それぞれ切り替えられる条件もありますので、合わせて解説していきます。
会社に就職したら〜国保から社保に切り替える〜
まず、今まで国保に加入していて、新たに会社で働くことが決まった場合です。
今までで見てきました通り、会社に所属していますと原則社保の適用となりますので、国保を辞める手続きが必要となります。
なお、社保の加入に関しては、会社の方で手続きをしてくれますので心配いりません。
国保を辞める手続きについては、各自治体の市役所にて行えます。
必要な持ち物等に関しては下記の通りです。
・新しい社保の保険証もしくは資格取得証明書
・社保加入者全員分の国保の保険証
・本人確認書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカード等)
・印鑑(自治体により必要の有無が異なる模様です。)
参照記事⇒質問 国民保険の脱退方法について知りたい|宇都宮市
また、注意点等については下記の通りです。
・申請期間として、14日以内と定めているところが多いです。
当然期限を守れないと国保を辞められないといったことないですが、国保と社保は管轄が違うので、申請が遅くなればなるほど、保険料の二重払い(国保と社保両方で保険料がかかる)のリスクが生じます。
・新しい保険証がお手元に届くのは、早くても2週間程度かかります。
上記の申請期間との兼ね合いもあるので、申請には即日発行も可能な「資格取得証明書」を利用するのが良いでしょう。
※こちらこら言わなくても作成してくれる会社もありますが、基本的にはこちらから会社に証明書の発行を依頼する必要があります。
・どうしても14日以内に仕事の休みが取れない場合は、家族に代理してもらうことや郵送での対応を検討しましょう
※それぞれ必要な書類も異なりますので、詳細は各自治体のホームページを参照の上手続きするのが間違いないです。
退職・独立したら〜社保から国保に切り替える〜
反対に、今まで勤めていた社保加入をしている会社から退職、独立等する場合を見ていきます。
この場合も、社保の脱退手続きに関しては、会社に扶養家族含めた全員の保険証を返却すれば会社側で勝手に行ってくれます。
ですのでこちらとしては、新たに国保の加入手続きが必要となります。
必要な持ち物等に関しては下記の通りです。
・社会保険資格喪失証明書
・離職票(ハローワークに提出する前に)
・退職証明書(社印の押印があるもの)
・源泉徴収票
・本人確認書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカード等)
・印鑑(自治体により必要の有無が異なる模様です。)
参照記事⇒質問 【国保・資格】国民健康保険の加入方法について。|相模原市
ただし、上記必要な持ち物等は、自治体にもよって異なりますし、上記全てが揃っていないと手続きができないというわけでもありません。
最低限、本人確認書類と社会保険資格喪失証明書(会社に発行を依頼する必要があります)があれば手続きが可能でもあります。
※その際、市役所の職員が諸々確認等行えるよう、退職した会社の電話番号や人事関連の担当部署等の担当者、また会社に返却する前に保険証のコピーを取っておく等の対応があるとよりスムーズに手続きができますね。
参照記事⇒質問 【国保・資格】国民健康保険の加入方法について。|相模原市
社保から国保へ切り替える際に知っておきたい「社会保険の任意継続」
ここで1つ注意しておきたいのが、「社会保険の任意継続」という制度についてです。
これは社保加入をしていた会社から退職したものの、転職活動をしていて今後も社保加入のできる会社で働いていきたいと考えている方におすすめの制度です。
下記に、厚生労働省が定めている定義と対象者についての記述を引用します。
任意継続被保険者制度は、健康保険の被保険者が、退職した後も、選択によって、引き続き最大2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度。
(任意継続被保険者制度の概要)
加入要件 (勤務期間)
・ 資格喪失の日の前日まで継続して2か月以上被保険者であったこと
資格喪失事由
・ 任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したとき
・ 死亡したとき
・ 保険料を納付期日までに納付しなかったとき
・ 被用者保険、船員保険又は後期高齢者医療の被保険者等となったとき
保険料
・全額被保険者負担(事業主負担なし)
・①従前の標準報酬月額又は②当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額※
のうち、いずれか低い額に保険料率を乗じた額を負担
※健保組合が当該平均した額の範囲内において規約で定めた額がある時は、その額
今までで見てきました通り、
・国保よりも社保の方が保障内容が手厚い
・特に扶養家族を有している場合等、国保よりも割安で保障を受けられる場合が多い
といった点を踏まえて、直近の新たな就職も視野に入れている方であれば、任意継続期間中の保険料は全額自己負担となりますが、一考の価値がある制度と言えますね。
切り替える際は保険料の二重払いに注意する
上記でも一部触れましたが、国保から社保への切り替えをする際は、必ず今まで入っていた国保の脱退手続きを行いましょう。
そうしないと、保険料の二重払いが発生する可能性があります。
もし二重払いが発生した場合は、前述の「国保の脱退手続き」を早急に行いましょう。
脱退をしますと、その月末に今まで支払っていた保険料を再計算の上、脱退から1〜2ヶ月の間に二重払いの期間分の還付を後日受けることができます。
参照記事⇒国保の脱退忘れ!二重払いした保険料の返還手続きと還付までの期間を確認|てつづきの美学
ちなみに、「脱退手続きをしなくても、社保に加入してから国保の保険料を納付しなければいいのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。
ですが、脱退手続きをしないと、国保の保険料を「未納している」という扱いになり、別途面倒な対応が迫られる恐れもありますので、必ず脱退はしてくださいね。
70歳になって「2割負担」と「3割負担」になる人の違い
保険料負担の中で、70歳になってからの医療費負担の違いに気づいた方も多いでしょう。
前述の表の中で、「現役並み所得の方」という記載がありますが、この現役並みの所得とはいったいいくらのことを指すのでしょうか。
厚生労働省によると、平成16年度の政管健保平均標準報酬月額である「28万円」を世帯収入として得ている被保険者を、「現役並み所得の方」として定義しているようです。
参照記事⇒(参考)医療保険制度の「現役並み所得者」について|厚生労働省
2割と3割の負担額の違いは、月額の収入28万円が基準となることを覚えておきましょう。
自分は何の保険に入ってるの?保険証の見方を覚えておきましょう
保険証の見方について、ポイントを押さえていれば、自分が何の保険に加入しているのかがわかります。
実際に、全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険証サンプルを見ながらポイントを確認していきましょう。
上記の保険証に、「記号」「番号」「保険者番号」の3つの数字が記載されていますが、それぞれ下記のような内容となっています。
・記号:「事業所整理番号」といい、あなたの勤める会社が健康保険組合に加入した際に割り当てられた番号を指します。
・番号:あなたの勤める会社で保険に加入した順番に振られる数字です。
・保険者番号:あなたの加入する保険の種類によって振り分けられている数字です。
参照記事⇒健康保険の種類とは?保険証を見ればどの保険に入っているかわかります|イオンの保険マーケット
あなたが何の保険に入っているかを判別するのには、上記「保険者番号」が重要な数字となりますので、保険者番号についてもう少し見ていきます。
まず、桁数が8桁であれば、原則社保の保険となり、6桁の場合は国保となります。
参照記事⇒健康保険の種類とは?保険証を見ればどの保険に入っているかわかります|イオンの保険マーケット
保険者番号が8桁で社保加入である場合、上2桁をまず確認します。
ここが「法別番号」といい、医療保険の種類を表しています。
参照記事⇒健康保険の種類とは?保険証を見ればどの保険に入っているかわかります|イオンの保険マーケット
ですので、保険者番号の桁数と上2桁の番号で、あなたが何の保険に入っているか判別できるということですね。
参考として、8桁のうち残り6桁分の番号の内容は下記の通りです。
・上3、4桁:勤めている会社が所在する都道府県を示す「都道府県番号」
・上5〜7桁:保険を管轄する責任者が定めた「保険者別番号」
・下1桁:上記「保険者別番号」が正しいか確認する「検証番号」
参照記事⇒健康保険の種類とは?保険証を見ればどの保険に入っているかわかります|イオンの保険マーケット
最後に、保険の種類を確認する「法別番号」の主だった番号を表にしましたので、ご自身の保険証を確認してみてください。
保険制度 区分 法別番号 被用者保険 全国健康保険協会菅掌健康保険 (協会けんぽ)
01 船員保険 02 日雇健康保険 03、04 組合菅掌健康保険 (組合けんぽ)
06 自衛官診療証 07 共済組合 31〜34 国民健康保険 国民健康保険法による退職者保険 67 後期高齢者医療 39 公費負担医療 各種 10、12など多数
まとめ
いかがでしたでしょうか。
国保と社保では医療費の3割負担等、一般的な内容では違いがないものの、更なる手当金や保険料の負担割合、また様々な組合ごとではそれ以外にも独自の福利厚生を設けているものもある等、詳しくみていくと結構違いがあるのも事実。
今勤めている会社や組織によって加入組合が決められていますし、自営業やフリーランスの方等はご自身の希望だけで社保に加入できるわけでもないという意味で、私たちがコントロールしにくい内容の話ではあります。
ですが、いざ環境が変わった際、またこれから変えようとする際に、この記事で見た保険の違いを頭に入れていただき、二重払いや手当金のもらい忘れ等がないようにし、健康保険で損をしないようにしていきましょう。